【考察】このドラマが描こうとしているもの 『田鎖ブラザーズ』6話
SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2026年4月スタートのテレビドラマ『田鎖ブラザーズ』(TBS系)の見どころを連載していきます。以下、ネタバレが含まれます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
『時効』という制度について初めて学生時代に学んだとき、理屈ではわかっても、何だか割り切れない奇妙な制度だなと感じた記憶がある。
本来の所有者ではなくても、問題なく長期間持ち続ければ自分のものになる。
犯罪を犯しても、長い期間逃げ切れば起訴されなくなる。
理由は、長く続いた事実状態を尊重することであったり、証拠の散逸等で立証が難しくなるということ。
時効制度の起源は、古代ローマ法にまで遡るらしい。自然発生的な制度で、意外にも近代的な概念ではない。
講義でノートを取りながら、法律って正義の何かというより『道具』なのだなと思った。
『田鎖ブラザーズ』(TBS系)は、その法律という道具の欠けた部分を描くドラマだ。
警察官、検察官、弁護士、裁判官。刑事訴訟に関わる各種の職業に着目したドラマは多々あれど、法律の制度そのものをクローズアップする作品は少ない。
その独特の切り口で作り手が何を描きたいのか、6話で一端が見えてきた。
兄の田鎖真(岡田将生)は神奈川県警青委署の強行犯係の刑事。
やる気がないように見えるが、いざという時の行動力はある。
弟の田鎖稔(染谷将太)は神奈川県警の検視官。優秀だが人付き合いが苦手。
警察で働く兄弟は、31年前に何者かに両親を殺害されており、事件は公訴時効の消滅で既に捜査も終了している。
しかし兄弟は諦めきれず、独自に犯人を捜し続けていた。
かつて兄弟の父と接点のあったジャーナリストの死をきっかけに、事態は意外な展開を迎える。
これまでに起きた現在の事件を簡略にまとめてみると、1話〜2話は、事故死した高校生の父親が、息子をパワハラで苦しめていたコーチや部活の顧問に復讐を企てる話。3話〜4話は、貧困・機能不全の家族で育った青年たちが金塊を強奪しその後仲間内で殺人が起きる話。
5話は、大学受験で採点ミスが隠蔽され、不合格になった受験生とその母が大学の担当者に復讐をしようとする話。
そして今回は、車の事故で妻を失った男が、不起訴になった加害者の女性の車に細工を施して殺害する話だった。
金塊強奪の事件以外は、法律で罰せられなかった加害者や量刑が軽い加害者を、被害者たちが自力で罰しようと試みた話だ。
いや、金塊強奪事件も、ある意味生まれつき奪われていたものを若者達が取り返そうと試みた復讐の話と解釈できるかもしれない。
思えば、わずか2日の差で公訴時効が成立し、両親を殺されても『なかったこと』になってしまった田鎖兄弟こそ、法律という道具で救われることのない苦しみの象徴的な存在なのだった。
今回、稔にも晴子(井川遥)にも吐露できない苦しみを抱えつづけている真に、市役所の福祉健康課の相談員・秦野小夜子(渡辺真起子)が近づく。
秦野は思いやり深く、真の苦しみを理解する素振りを見せながらも、真を囲い込んで操ろうとしている。
この秦野小夜子を演じる渡辺真起子が、背筋がゾワゾワするような怪演なのである。
おそらく誰もが、現実にもこういう雰囲気の人がいると頷くはずだ。
一見ごく普通、温厚で受け答えが当意即妙でそつがない。悩みを打ち明けるとピタリと寄り添ってくれる。この人ならば分かってくれる。そう、他の人は誰も分かってくれなかった。
そうしていつの間にか排他的に囲い込まれるというのは、私たちの友人関係や職場でも身近にあることではないだろうか。
それにしても、法律の狭間で救われずに苦しむ人たちを囲い込んで操ろうとする秦野小夜子の真の目的は何なのだろう。
社会の道具として法の天秤がはじき出す量刑と、その天秤には乗らない被害者側の苦しみ。
『田鎖ブラザーズ』が全体を通して描こうとしているものは、案外複雑でとても重苦しいものかもしれない。
[文/かな構成/grape編集部]