車内で泣き叫ぶ娘をあやす若い父親 その後の展開に「涙が出た」「考えさせられる」
grapeでは2019年にエッセイコンテスト『grape Award 2019』を開催。『心に響く』をテーマにした、多くのエッセイが集まりました。
今回は作品の中から、特に反響の大きかった『あの日の若いパパ』をご紹介します。
あの日の若いパパ
電車や飛行機等の公共機関で、泣いている子供と困り顔の親を見かける度に思い出す場面がある。
今から18年ほど前、私にはまだ子供はおらず、全国に出張で身軽に飛び回っていた。
その日も名古屋から大阪に向かう新幹線に乗り、仕事の緊張感から解き放たれる束の間のひととき、車内販売のアイスクリームを楽しみにしていた。ところが、だ。
乗った瞬間から遠くで子供の泣く声がする。
「しまった」と思った。
しかも泣き声はどんどん大きくなり、やがて車両中に響き渡った。
新聞に目を向けながらも明らかに不快な顔をする中年サラリーマン、舌打ちしながら寝た振りする大学生風の男性、私もさすがに態度には出さないものの、今の言葉で表現するなら「激しく同意」な心境だった。
見ると1歳前くらいの女の子の赤ちゃんと、若いパパの二人連れだ。
近くには育児経験のありそうな救世主になってくれる女性の姿は見当たらず、父親は泣き止まない娘を抱えデッキと車両を行き来するだけで、どう対応して良いか分からない様子だった。