父親とギクシャクしていた娘 ある日『茶封筒』を手渡されて…
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『茶封筒の中身』をご紹介します。
茶封筒の中身
とある日曜日の夕方、私は父から封筒を受けとった。孫に会いにやってきていた父を、玄関先まで見送りにでた時のことだ。
父は突然思い出したように、「そうだ、これをお前に渡そうと思っていたんだ。」と言って、鞄から茶封筒を取り出すと、私に手渡した。
中には、お札が入っていた。結構な厚みである。
何のお金やら見当のつかない私に、「〇〇(娘の名前)が入園したから、お前へのお祝いだ。何かお前のものを買いなさい。」と言い残して、父は帰って行った。
私の母は、私が幼い頃に亡くなっており、父は、私と妹を一人で育ててきた。母の直球の愛情とは違う、寡黙な父の不器用な優しさに、私は長い間気がついていなかった。
思春期の私は、自分だけが母親のいない可哀想な子供だと思い込み、何を考えているのかわからない父とは距離を感じていた。