ドーナツ店に来た、もじもじする男の子 店員が声をかけてみると…?
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『泣き虫弟とショーケースの向こう側』をご紹介します。
私には5歳年下の弟がいる。
小さい頃は泣き虫で、朝起きては「眠い」と泣き、嫌いな野菜が「食べられない」と泣き、大嫌いなスイミングスクールに「行きたくない」と泣いた。
泣いている傍から「男のくせに、すぐ泣く!」と、父親に叱られてはまた泣き、そんなこんなで1日中泣いていたから「こんな状態で大丈夫なのかしら?」と母の頭を悩ませていた。
その日は私が地元の公立高校に合格した日だった。夕方、弟はいつものように半べそをかきながら大嫌いなスイミングスクールに出かけて行った。
夕食前に濡れた髪にプールバックを抱えて帰ってきた弟は「はい、おねえちゃん。高校合格おめでとう」と、小さな紙袋を私に差し出した。スイミングスクールの横にあるドーナツ屋さんの紙袋だ。