「仕事に行きたくない」と嘆いていた女性 コンビニ店員の『あるひと言』で…?
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『毎朝のルーティン』をご紹介します。
私は職場に行く前に立ち寄る場所がある。それはコンビニ。もうルーティンみたいな感じになっている。
朝8時、駅近くにあるコンビニに入る――。仕事のお昼ごはんの調達である。
朝、早起きしてお弁当を作っていこうといつも思うけれど、疲れて帰った私は出勤ぎりぎりまで寝ていたいという欲に負けて、きょうも作るのを諦める。またいつか作るからの繰り返し。
これでもかっていうくらい人がいっぱいの電車に乗り、憂鬱な気持ちで職場の最寄り駅で降りる。扉が開き、人がどっとあふれ出る。
――ああ、仕事、行きたくないな。
電車に乗れば嫌でも体は職場に向けて勝手に運ばれていく。でも当たり前だが、電車から降りてからは自分の足で歩かなければいけない。
こんなに会社まで遠かったっけ……。
足取りが重くなる。亀のようにスローペースだ。あっ、お昼ご飯を買わないと。
職場では休憩時間を取りにくく、外へ食べに行くなんて、なかなかできない。人手不足でごはんを食べながら電話対応なんてザラだ。ブラックだなと思う。
私はいつものように駅から少し歩いたコンビニに入った――。コンビニのレジは自分と同じように昼食を求めた会社勤めの人たちで長蛇の列だ。
就業前の朝は混雑のピークなのであろう。人気のお弁当は、もう早速売り切れたりしている。オフィス街ということもあり、すごい人である。
――お店の人たちも大変だよな。
そんな怒涛の中、テキパキと店員さんたちは精算作業をこなしていた。そして、どんなに忙しくても明るい声で、笑顔で接客をしている。
私の番がやってきた。ピッピッと無駄ない動きで商品のバーコードをリズムよく読み取り、レジ袋の持ち手をきれいにそろえて、そして、「お仕事、お気をつけていってらしゃいませ!!」ととびっきりの笑顔を最後につけて袋を手渡してくれた。
はい!と思わず返事をしたくなるような、気持ちのこもったことばだった。
今までコンビニで「ありがとうございました」は言われたことがあるが、「お仕事、お気をつけていってらしゃいませ!!」と言われたのは、初めてだった。
あんなに仕事のことを考えたら嫌な気分だったのに、店を出た私は少し気持ちが楽になった気がする。たったことば1つが変わっただけなのに。
もう少し、頑張ってみようかな、と思って今日も私はおにぎりにかぶりつく。
お弁当は無理せず作らなくてもいっか。またコンビニに行こう。そして、また元気をもらおうかな。
――仕事、頑張って行ってきます!
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響いた接客エッセイ』
タイトル:『毎朝のルーティン』
作者名:今井 聡美
エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!
2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。
さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。
心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!
『grape Award 2020』詳細はこちら
[構成/grape編集部]
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