溜め池のそばに設置された貼り紙 『バス乗務員』の想いに「切ない」「悲しいなぁ…」
ある日、西鉄バス北九州株式会社・八幡自動車営業所前を通った木炭(@kuroguroki)さん。
道路沿いの整備された溜め池のそばに、貼り紙が設置されているのを発見しました。
したためられていた長文の内容は、『カメを持って行った人へ』。
読む人の胸を打つ、カメ想いな内容がこちらです。
ここにいた2匹のカメは、生まれてからすぐここにやって来て、育ってきました。
1度も自然の中で暮らしたことがありません。
近所の川や池にいるカメは、アカミミガメという、ミドリガメが大きくなった強いカメです。
ここにいたカメたちは、クサガメというカメです。
アカミミガメのほうが強いので、いじめられてしまうし、クサガメも外国から日本にやって来たカメなので、川や池に放さないで、大切に育ててください。
カメはお魚と違って、水中では息ができません。
水をたくさん入れる時は、島を作ってあげないと、泳ぎつかれて、おぼれます。
水が汚れて臭くなると、カメは水を飲まなくなったり、エサをあんまり食べなくなって病気になります。
毎日、水を替えてあげてください。
冬の間は冬眠しますので、12月くらいに水の中にきれいな落ち葉をたくさん入れてあげてください。
寒くなると落ち葉にもぐって冬眠します。
冬眠させる10日くらい前から、エサを食べさせないでください。
お腹の中に食べ物が残ったまま冬眠すると、そのまま死んでしまうことがあります。
暖かくなると、起きてきます。
お腹がビックリするので、すぐにはエサをやらないでください。
色が違うけど、2匹ともクサガメのオスです。
まだまだ大きくなりますので、大事に育ててください。
西鉄バス八幡営業所からカメ持ってった人へ pic.twitter.com/HAuOtZSKnz
— 木炭 (@kuroguroki) September 6, 2020
カメを持って行った人を責めるのではなく、ひたすらにカメのことを想った内容。文面から、この貼り紙を作成した人がどれだけ大切にカメを育ててきたのかが伝わってきます。
木炭さんが写真をTwitterに投稿すると、大きな反響を呼びました。
・大事に育てていたことが分かって胸が苦しい…。
・切ない。こっそり返してあげてほしいな。・「返してください」と書いていないのが胸に来る。
西日本鉄道株式会社に問い合わせたところ、貼り紙を設置したのは八幡自動車営業所のバス乗務員であるSさん。入社25年目の53歳とのことです。
120人の従業員がいる営業所内で、主となってカメのごはんや温度管理・掃除などの世話をしていたそうです。
飼われ始めた経緯と、消えた日のこと
カメ2匹が営業所に来たのは、2014年頃のこと。
ほかの乗務員から、まだ5㎝ほどの小さなカメ2匹をSさんが預かり、ケースに入れて営業所内で飼い始めたそうです。
ケースの近くにカメたちのごはんを置いていたため、通りかかるたびに餌やりをする人もいて、営業所内の全員でかわいがっていました。
それからしばらく経つと、カメたちは大きく成長し、12~13㎝に。
2020年7月26日には、ケースに2匹入れておくのが窮屈になってきたため、営業所の表にある溜め池に移して様子を見ていました。
水面から縁まで15㎝以上の距離を開け、カメが逃げ出せないように調整。また、Sさんが見たところ逃げ出そうとする様子もなかったそうです。
溜め池は道路沿いにあるため、通りすがりの子供たちが楽しそうに見ていることも。Sさんの中に、「みなさんの癒しになれば」との想いも芽生えていました。
消えてしまったカメたち
同月30日の昼頃、Sさんが世話をしに行った時に、カメ2匹は溜め池にいたといいます。
しかし、夕方には姿が見えなくなっていたのです。
Sさんは営業所内で聞き取りをしましたが、カメたちの行方は不明のまま。「見つからない」と諦めて、ガッカリしてしまったそうです。
溜め池の深さとカメたちのサイズから「逃げた」とは考えづらいため、「もし誰かが連れて帰ったのならば、せめて大切に育ててほしい」との思いからSさんは貼り紙を作成。
小学校の時からカメを飼っていたこともあり、飼育する中で気付いたことや気を付けたほうがいいことなどを書きました。
Sさんは、改めて次のように想いをつづっています。
もし持って行った人がいるならば、どこかに捨てたりせずに大切に育ててほしいです。
数年間世話をしていたのでさびしいことはさびしいですが、自身が子供だった時を思い出すと、カメがかわいくて持って帰ろうとする気持ちは理解できます。カメに対しては、純粋に、元気で生きていてほしいと思っています。
なお、2020年9月16日現在、カメに関する連絡は何も来ていないとのこと。
Sさんや営業所の人々の愛情を受けていたカメたちが、今もどこかで元気に生きていることを祈ります。
[文・構成/grape編集部]