父・奥田瑛二が女優・安藤サクラを鍛えた「『夕鶴』特訓」
だが、父の願いもむなしく、幼稚園のお遊戯会から、サクラさんはその才能の片鱗を見せ始めていた。小学校5年の学芸会で『夕鶴』の主役オーディションに受かった。
このとき、奥田さんは和津さんに頼まれて、サクラさんの演技指導をしている。「15分だけだぞ。正座してお願いしますと言わなきゃダメだ」と、言って始まった稽古は気づけば20分、30分と過ぎていった。
「いや、そうじゃない。違う。小学生みたいな芝居してるんじゃねえよ!」
小学生のサクラさん相手に、奥田さんは熱くなった。
気づけば1時間半がたっていた。
「バカヤロー!学芸会みたいな芝居してんじゃねぇんだよ!」
ついにサクラさんが、「だってこれ、学芸会だも~ん」と泣きだした。しかし、このときのサクラさんの演技は後々まで語り草になった。
「先生方みんな泣いたんですって。それに妙に色っぽかったのよね(笑)」(和津さん)
サクラさんが秘めた思いをぶつけてきたのは、高校卒業のころだ。両親の部屋で、正座をしたサクラさんは、神妙な声でこう言った。
「お父さん。お話があります」
「うん。
なんだ」
「女優になりたいんです」
シーンとした沈黙がしばらく続いた。