2019年1月9日 16:00
東京五輪・公式映画監督 河瀬直美を支える「家族のつながり」
カメラを回し、父に関する証言を取材して歩き、ついには実の父親と再会する。それがドキュメンタリー『につつまれて』(’92年)になった。作品は評価され、周囲の目が一気に変わった。映画監督・河瀬直美の誕生だ。
「この作品を完成させたことで、映画を死ぬまで続けようと決心できました」
’96年、専門学校を退職し、奈良に事務所「組画」を設立。翌年には、奈良・西吉野の自然をバックに撮った『萌の朱雀』で、カンヌで一躍、時の人となった。
最初の結婚は’97年。夫は『萌の朱雀』のプロデューサーを務めた人だったが、しだいに夫との間に心のすれ違いが生じていき、結婚生活は3年足らずで破綻した。
’04年、当時のパートナーとのあいだに、光祈(※祈の字体は、示へんに斤)くんが誕生。畳の部屋で、映画スタッフなど、仲間たちに囲まれながらの自宅出産だった。90歳の養母が生まれたての息子の手を握ってほほ笑んでいる姿を見て幸せだった。「出産は『命』を分けるということなのだ」と実感していた。
ある夜のこと、オムツ替えや授乳でてんてこ舞いしながら、夜泣きする子どもを抱いて、河瀬さんはオルゴールを鳴らした。