「こんな遠くまでご苦労さまです、私が箱石シツイです」
齢102を迎えたいまも現役で理容師を続ける女性がいると聞き、取材に向かった。場所は栃木県那珂川町。約束の時間に国道沿いの店舗兼自宅を訪ねると、箱石さんはぺこりと頭を下げた。
80年以上使ってきたハサミで、お客さんの髪を軽快に切っていく。ひげそりは、確かな手さばきでカミソリを、細かいところまでていねいにあてる。終わったあとのお客さんの顔はピカピカだ。
手が震えたりは、まったくない。背筋を伸ばして理髪する姿は驚くほかはない。
「必要としてくれる人がいるうちは床屋を続けたいね」
今年1月から長男・英政さん(75)夫婦と同居を始めたが、昨年12月まで、半世紀以上にわたってずっと1人暮らし。炊事など家事全般を1人でこなし、理容店もたった1人で切り盛りしてきた。昭和11(1936)年に理容師免許を取得して以来80年余、いまも衰え知らずで、毎日ハサミを握る。
「いまはもう、常連さんしか来ないです。その常連さんも亡くなったり、老人ホームに入ったり、だいぶ減っちゃいました」
それでも「よそではダメなんだ、箱石さんじゃなきゃ」と、わざわざ足を運ぶ人も少なくない。