端役人生70年、加藤茂雄さん「僕の俳優人生は黒澤明監督のおかげ」
「こんなに大勢の人が見に来てくれるなんて、本当にびっくりだよ」
うれしそうに白い歯をのぞかせてはいたものの、思いもよらぬ“大入り”に、ベテラン俳優はどこか、たじろいでいるようにも見えた。
6月1日、梅雨入り間近の神奈川県鎌倉市。材木座海岸にほど近い光明寺には、いつにも増して多くの人が集まっていた。人々の目当ては、地元・鎌倉が舞台の新作映画。やはり地元出身で、この寺にも縁のある俳優が主演をつとめ、この日は境内にある開山堂で、上映会が催されていたのだ。
開場とともに受付には長蛇の列が。事前に並べられた座席はまたたく間に埋まり、急きょ、寺じゅうからありったけの椅子が運び入れられた。立ち見も含め、会場は250人の観客でいっぱいになった。
「事前に売れた切符が50枚ぐらいと聞いてきたから、半分でも埋まればいいかな、と思っていたんだ。それが、ふたを開けてみたら、この大盛況。会場はぎゅうぎゅう詰めだったね」
申し訳なさそうにこう話すのは、70年ものキャリアを誇る俳優・加藤茂雄さん。この上映会のすぐあとに誕生日を迎えた、御年94。
しかし、その名を聞いても、多くの読者はピンとこないことだろう。