『エール』古関裕而さん 最愛妻に捧げた“五千曲のラブレター”
新聞記事を読んだだけで熱烈なファンレターを送ってきて、文通だけの3カ月で結婚。NHK連続テレビ小説『エール』主人公モデルの作曲家・古関裕而(ゆうじ)の妻・金子(きんこ)という女性はとにかく強烈な個性の持ち主と、子や孫は口をそろえる。そんな夫婦の物語を、子や孫は「内助の功もないのに、なぜドラマ化?」と思っているが、温厚な裕而を支え続けたのは、やはり妻・金子だったのだ――。
裕而は自伝で、金子についてこう綴っている。
《妻は次第に家庭的に忙しくなり、残念ながら歌を歌う機会を逸してしまうが、家庭を守りながらも、私の仕事のよき理解者であり、よきアドバイザーであった》
金子は声楽を学んでおり、帝国音楽大学へ入学した経歴の持ち主。息子の古関正裕さん(73)は、家事の合間に歌っていた金子の姿をよく覚えている。後年、その母は、正裕さんに向かってこんなことを言った。
「あなたの子育てのおかげで、私は声楽をあきらめたのよ。
私がベルトラメリ能子先生の一番弟子で、私だけが結婚もして、子育てもしながら頑張っていたのに」
正裕さんは苦笑しながら、
「いや、それは心外でしたよ。そんなことを言うのなら、いっそ続けていてほしかった」