“師匠”から見た志村けんさん「もの悲しさを好んだ人」
「志村けんさんが亡くなられたのはニュースで知りました」
静かな口調でそう話してくれたのは、津軽三味線奏者の上妻宏光さん(47)。上妻さんは、3月末に亡くなった志村けんさん(享年70)の三味線の“師匠”だ。
「最後にお会いしたのが去年の夏。7月か8月頃でした。『志村魂』という志村さんの舞台の稽古です。舞台で演奏する際のアドバイスや、曲に関しての話をしました。そのときは、志村さんは前後にお芝居やコントの打ち合わせも入っていて、長くお話をするような状況ではなかったので、舞台の打ち合わせを淡々として。その後も、舞台に関してメールのやりとりをしたりもしましたが、お会いしたのはそのときが最後になりました」
志村さんとは16年の仲。
上妻さんが志村さんのラジオ番組にゲスト出演し、のちに志村さんから“弟子入り志願”。志村さんが力を入れていた舞台『志村魂』のために三味線を指導、2016年には「キリン 氷結」のCMで共演するなど交流を重ねてきた。
「僕が志村さんとお付き合いを始めた頃っていうのは、まだ『志村魂』を始められる前でした。『ゆくゆくはテレビじゃなくて舞台で、生の空気感でお客さんと対面しながらやる一座を組むのが夢なんだよ。それは絶対にやりたいんだ。そのどこかの部分でこの三味線が披露できたらいいんで、そのときはぜひ協力してください』という話だったんですね。それが僕と出会ったときの、志村さんの一つの大きい夢でした」
志村さんがどうしても上妻さんに弟子入りしたいと希望した理由の一つが、上妻さんのオリジナル曲『紙の舞』だ。この曲を弾けるようになりたい、と切望していたという。
「志村さんが『紙の舞』を気に入られたのは、古典の音楽にないような表現やメロディのためではないでしょうか。リズムも一定ではなく変化する曲です。志村さんは“いろんなイメージをかき立てられる、情景を思い浮かべることができる曲”というようなことをおっしゃっていましたね」
上妻さんいわく、「『紙の舞』は、情緒的で、儚さ、切なさを感じさせる曲」。儚い、もの悲しいメロディが志村さんの好みに合ったのではないか、と言う。
「『風林火山』という曲も志村さんはお好きでした。ダンス系の曲や昔のブルース、ジャズ、フュージョンなど、いろいろな音楽を聞かれていましたけど、三味線の曲でいうともの悲しい感じのものが好みだったのかもしれませんね」
『紙の舞』の稽古のときは、こんなやりとりをしたという。
「“突然風が吹いて、紙が舞い、自然に廻っていく。紙が廻ってきたなと思うと、風がなくなるとひらひらと落ちてくる。
そんなイメージで作った曲です”。このようなことを伝えたら、志村さんはそれをイメージして演奏されるようになりました。“ああ落ちていくんだな”というイメージがあると表現しやすいんですよね。飲んでいる席でも、『曲のあの部分はどういうイメージですか。高揚していく感じ、広がっていく感じですかね』なんておっしゃっていましたね。そういうのをもとに演奏してくれたのかなと思います」
志村さんとの思い出が、師匠である上妻さんの“芸”にも影響を与えているようだ。
「三味線をすごく愛してくれて、僕の曲を、音をすごく愛してくれた方なので、志村さんの思いというものを背負いながら三味線を演奏していきたいと思いますし、天国で聴いて喜んでもらえるような曲を作って頑張っていきたいと思います」
上妻さんはこの3月、自身の原点・津軽五大民謡の演奏を収録したアルバム『TSUGARU』をリリース。また同時に、矢野顕子とのコラボレーションユニット「やのとあがつま」としてもアルバムをリリースするなど、伝統と革新、双方向から精力的に津軽三味線の可能性を追求し続けている。
9月5日からはソロデビュー20周年を記念したツアー・上妻宏光「生一丁!」Tour 2020-2021“伝統と革新”がスタート。志村さんも、きっと天国から“師匠”の演奏をご覧になるだろう――。
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