「家事は放棄して、と言われ…」岩下志麻語る“戦友”夫婦像
ああ、この人にとってはそれほどの決意なんだと改めて知り、なんとか力になりたいと思いました。69年に篠田と組んだ『心中天網島』では、初めてチケット売りも体験しました」
この映画は興行的に大ヒットしたばかりでなく、『キネマ旬報』ベスト・テン1位や、岩下さんも数々の主演女優賞に輝くなど高い評価を得て、夫婦の代表作となった。
その後の86年、『鑓の権三』を監督するにあたり、篠田さんは言った。
「これで、僕が撮る岩下志麻は最後だよ」
四半世紀にわたった監督と主演女優のコンビに終止符が打たれた。しかし、岩下さんの女優としてのチャレンジは続く。同年、前出の『極妻』シリーズへの出演で、さらに新境地を開いたのだった。
そして72歳になった篠田監督は引退宣言をして、執筆活動に入った。当時のインタビューで、岩下さんは「これでやっと、女優としてではなく、妻として彼と向き合える時間が増えると思います」と語っていたが。
「ふふふ。そうは言いましたが、映画のお仕事も続きましたし、やっぱり私は女優でしたね。
それから、つくづく思うんです。結婚にあたり、『家事はしないでいい』と言った彼ですが、まあ、新婚当初はそうでも、そのうち変わるかもと思っていたら、まったく変わりませんでした。