特殊メーク第一人者・江川悦子「おくりびと」の遺体も“作った”
日本を代表する俳優たちをメーク筆一本でときに老人、ときに怪人に変身させる(撮影:田山達之)
オフィスに入った瞬間、足が止まった。出迎えてくれたのはゾンビに妖怪、宇宙人。部屋の一角は死体まで横たわっている。
ここは、東京・成城の東宝スタジオのなかにある「メイクアップディメンションズ」。日本を代表する特殊メークのプロ集団だ。
壁一面が、渡辺謙、役所広司ら俳優陣に加えて、元SMAPの5人や和田アキ子など、芸能界の錚々たる顔ぶれのライフマスクで埋めつくされている。このマスクは、変身するときの基礎となる顔型だ。三國連太郎、佐藤浩市、寛一郎という3代にわたる役者ファミリーのマスクも横一列に並んでいて、同社の長い歴史がうかがえる。
階下の工房では、作業台の上に坊主頭用のかつらピース(人工皮膚)が20個も並べられて、女性スタッフが肌に色ムラをつける“飛ばし”の特殊メークを施している最中。この時代劇用のかつらにも、一つ一つに誰もが知る俳優の名が。
「うん、いい出来。あとは“皮膚感”かな。少し赤みや緑も入れると、よりリアルになるでしょう」
同社の代表で創業者でもある江川悦子さんが、自らブラシを手にしながら言う。