虫大好き篠原かをり「ふしぎ発見」ジャングルロケも「大満足」
今年3月に修了した慶應大学の大学院にて。実験動物のドブネズミの魅力にどハマりしたそう
『世界ふしぎ発見!』(TBS系)でミステリーハンターを務める篠原かをりさん(26)。今まで400匹以上の虫や生きものを飼育してきた。生きものへの愛情は並々ならないが、じつはヒトは苦手で、極度の人見知り。ほとんど友人がおらず、不登校になってしまうこともあった。
しかし慶應義塾大学環境情報学部に進学してからは、楽しいことも多かったという。
「学校生活は小・中・高とまったく合わず、マイナスの状態からのスタートだったので、大学はとにかく楽しかった。自然が豊かで、チョウを捕まえたら出席になる独特の講義では、いちばん最初に捕まえたし、友達の分まで捕りました」
研究テーマであった「笑いと健康」に関しての実験では、新たな溺愛動物にも出合った。
「ヒトだけでなく、ネズミにも笑い声が確認されていたので、その笑い声を聞くと、ネズミにどういう健康への影響があるのか調べるため、ドブネズミを飼い始めたんですね」
ある晩、寝ていると体に重さを感じた。
携帯かなと思ったら、もこもこと温かいドブネズミだったのだという。
「ケージから脱走して自由の身になったのに、最初にすることが私のところに来ることだったんです。それまでげっ歯類はぱっとしない生きものだと思っていたけど、いかに素晴らしいかわかったんです」
愛嬌たっぷりのドブネズミは、一般的には犬や猫のように愛されず、虫同様に、ヒトから嫌われがちだ。
「でも、虫や生きものの魅力を知らず嫌ってばかりでは、ヒトにとって、もったいないこと。この地球は『虫の惑星』と言われるほど、虫は圧倒的なマジョリティ。少しでもその素晴らしさを伝えたいって考えるようになったんです」
その一つの手段であり、夢であったのが、本の出版だった。
「私の人生の転機は、大学2年のときの、出版甲子園というイベント。自分の出したい本の企画をコンペに出せば、出版のチャンスを得られるって応募したんです」
テーマは、昆虫を擬人化して、いかにヒトと近いのかを伝えるというものだ。
たとえばオドリバエはだまし合うことで知られる昆虫だという。「オスがメスに贈り物をして交尾が成立するんですが、贈り物の大きさが一定以上でないと相手にされません。だからオスは大きな虫の死骸を持ってくるんですが、姑息なオスは大きな糸の塊で中身のない贈り物を持ってきてだましたりする。高級ブランド品の紙袋で、安いプレゼントを贈るようなものです」
人間社会でも重ね合わせられるような虫との共通点を描いた企画書は、出版甲子園で大賞に輝き『恋する昆虫図鑑』が出版された。
一冊の本を出版したことは、かをりさんの人生を大きく変えた。
「テレビ出演する機会も増えていって、大学院1年生の年末、『世界ふしぎ発見!』のスタジオ収録に招待されたんです。収録後の忘年会のようなパーティにも参加させてもらったときに『山とか行きたいです』とアピールしたら、年明けすぐに海外ロケが決まりました」
南米のスリナムを皮切りに、エジプトやタイ、ガイアナなどにもロケに行った。
“ジャングル担当”のレポーター業は、過酷なロケのはずだが――。
「シャワーとか水ですし、地面にはアリ、空中には蚊、もうちょっと上にはハチがいて全方位、虫に攻められる環境ですが、精神的には大満足です」
体当たりのレポートを、視聴者は好意的に受け止め、劣等感を抱いていたかをりさんに自信を与えた。
「メディアに出ると“きっと嫌なことを言われるに違いない”と身構えていたんです。ところが『生きもの愛にあふれている』『好きだという気持ちがすごく伝わった』と応援のメッセージが多かった」
ずっと不正解とされ、大多数の正解者にはなれなかったが、新たな世界を広げたことで自分のことを認めてくれるヒトもいたのだ。
「生物は、同じ遺伝子ばかりだと不測の事態のときに弱い。少し別の遺伝子を持った個体がいることで、種は守られます。だから私のような異物が入って多様性があったほうが、種の繁栄につながるのかもしれません」
そう語るかをりさんは、南米のスリナムのジャングルに滞在していたときのことを思い出す。朝起きると大雨が降っているのかと思うほど屋根をたたく音が聞こえた。驚いて外を見ると、野生のスパイダーモンキーの群れが、木の枝や餌を食べた後の殻を小屋に向かって投げていた。
“嫌いな人間を排除しているのだろう”と考えたが、同行していた研究者は「たしかに怖がっているけど、じつは興味も持っているんだ」と教えてくれた。「いちばん怖がっているコーディネーターを“穴”だと見抜いて、集中的に物を投げつけるんです。それだけ恐怖心はあるけど、誰がいちばん怖がるのかを興味を持って観察しているんですね」 そんなとき、ふと自分の姿に重ね合わせた。
「私もヒトと関わるのが苦手で恐怖心も持っていたけど、じつは目が離せない存在なんだって。実際、メディアに出たとき、私は人々の反応が気になっていたのですが、世の中のヒトたちは、私の想定よりずっとやさしかった。それをうれしく思ったんです。
だから、もっと“好きじゃない気持ち”を分解して解像度を上げていけば、何か新しい魅力が見つかるのかもしれないと思います。それに、テレビに出てからやさしい言葉をもらったとき、自分自身も意味のある存在だと思えるようになったんですね」
そして一つの答えに行き着いた。
「やっぱりヒトとして生まれた以上は、もっとヒトと関わって、魅力を知りたい。そして理解して、愛して死にたい」――。
「女性自身」2021年6月1日号 掲載