コロナ時代これまでの「お金の常識」が崩壊していく3つの理由
「巣ごもり生活で、すっかり家計が“メタボ”になってしまいました。コロナによる自粛期間でいちばんかかるようになったのは、通信費と食費ですね。夫がテレワークをするために、新たにモバイルWi-Fiに加入したので通信費が増えてしまいました。また、外食ができなかったのでスーパーに行く回数も増えましたが、どこのお店に行っても、ポイントを貯めるために不要なものまで買う癖がついてしまって……」
そう嘆くのは首都圏に住む50代の主婦。
生活環境の変化や収入減など、長引くコロナ禍の影響で家計がダメージを受けたという人たちが増えていると指摘するのは、『こんな時代でもラクラク貯金ができる!○×でわかるお金の正解』(KADOKAWA)の著者で、家計再生コンサルタントの横山光昭さん。
「コロナ前は当たり前だったお金の使い方が、ウィズコロナの時代にはそうではなくなるなど、お金にかかわる価値観がガラッと変わりました。こんなときだからこそ、変化に対応して“負けない家計”を作りましょう。今は生活がキツいかもしれませんが、できることはたくさんあるはずです」
家計相談の現場では、「緊急事態宣言」の影響をまともに受けた業界に勤めている人たちから、切実な声が上がっているという。
「これまで当たり前のようにあった定期収入が激減して、支払いの予定が狂ってしまったのです。たとえば、持ち家の人で、住宅ローンをボーナス併用払いにしているケースや、固定資産税や車検代、家電の購入代をボーナスで支払う予定を立てている人もいます。お子さんがまだ学生であれば教育費や塾代が捻出できなくなりますし、今まであった収入をなかったものとして、新しく予算を立て直す必要が出てきてしまいました」(横山さん・以下同)
夫が定年を迎えて、年金生活に入るときにはローンは支払い終えていたいと思う人は多く、貯蓄の一部を「繰上げ返済」に充てていたような人は、返済計画が狂ってしまうことになり、老後の計画を考え直さなければならない。
「老後の資金計画ということでは、『2,000万円問題』が有名です。総務省の家計調査が元になったもので、高齢夫婦2人の平均収入から支出を引くと、毎月赤字が5.5万円出ると想定して、30年生きたとすると、赤字2,000万円になるという試算からきています」
■環境の変化にともない「お金の常識」にも変化が
ただし、この試算は持ち家があることがベースになっていて、持ち家がない人は「もっとお金がかかる!」とあせるあまり、マンションなどを購入してしまうケースもよく見られるという。
「これからの時代は、持ち家にこだわらず賃貸暮らしでもいいと思います。無理に住宅ローンを組むよりも、将来、高齢者施設に入る資金として、その分の現金を持っていたほうが安心できる場合もあります。終(つい)のすみかとしてあせって購入した家が、結果的に“負動産”になる危険性もありますから」
家計の変化は、コロナ禍による生活様式の変化にも影響を受けている。
外食費や旅行代は減ったが、「おうち時間」が長くなったことで光熱費や通信費、食費がかさむようになった家庭が増えたのだ。
「家にいる時間を充実させるために、夏場は炭酸水メーカーなどを購入したという話をよく聞きましたが、じつはわが家もコーヒーメーカーを買ってしまいました(笑)。ほかにも、冷蔵庫やテレビ、トースターなど、買い換えの予定がなかった家電を買ったというケースや、テレワークのためにパソコンやデスク、椅子、プリンターなど一式そろえた方もいました」
外食を控えた分、宅配サービスの利用が増えてしまったり、あるいは、趣味の旅行を控えたりした結果、ストレス解消のために不要な家電や嗜好品を買ってしまった、などというのはよく聞く話だ。
このようにお金をめぐる環境が変化するなか、お金についての常識もまた変化している。もう一度、貯蓄ができる「家計」を作るためには、こうしたお金の常識の変化を踏まえて支出を見直すことが肝心だという。
「コロナ前は、無収入になったときへの備えで、生活費7.5カ月分ぐらいの蓄えがあれば、安心できますよ、とお伝えしていましたが、今は1年分ぐらい準備しておきたいですね。また、コロナ禍時代を迎えた現在、大きく変化したお金にまつわる『新常識』を知っておくことが欠かせないでしょう」
■環境に合わせて支出のバランスを整理しよう
環境の変化にともない、さまざまなお金の「常識」が変わっても、支出の中身を知ることの重要性は変わらないと横山さんは言う。
「直近1カ月の支出を『ショウ(消費)・ロウ(浪費)・トウ(投資)』の3つに仕分けてみると、『こんなに使ったかな?』という項目が出てきます。
浪費を見つけて、翌月以降、買わないように気をつけていくだけで、お金は貯まるようになってきます」
〈消費〉は、月々の家賃や住宅ローン、食費や通信費、水道光熱費や交通費など生活に必要な支出があてはまる。
〈浪費〉は今を楽しむための使い方。お酒やたばこ、コーヒー、スイーツといった嗜好品の過剰な消費がこれにあたるほか、ATMの時間外手数料なども。
〈投資〉は将来につながる出費。毎月の貯蓄や仕事に活用できる習い事や書籍代などが含まれる。
「買っても読んでいない本は浪費です。毎日の食事も食材を使い切れば消費になりますが、余らせてしまうと浪費になります。美容代などは消費ととるか浪費ととるか、それぞれの価値観によりますね。
いずれにしてもお金が貯まる人には共通点があり、消費が支出全体の70%、浪費は5%、投資は25%程度であること。支出のバランスを、この“理想の割合”に近づけていきましょう」
コロナ禍前に25%だった投資が10%まで下がっているような場合は、すぐに“家計非常事態宣言”を発出する必要がありそうだが、まずは「先々の不安からいったん頭を切り離して、冷静になる」ことが必要。次に、現在の手取り収入、生活費や毎月の保険料、貯蓄額や住宅ローンなどを紙に書き出し、家計全体を把握しよう。
「家計の悩みを抱えている人の多くは、現状整理ができていません。月々の収支を見直しても、通年の収支がわかっていないと、支出のズレが出てしまいます。現状をきっちり把握してから、月々の支出をチェックしましょう」