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プーチン大統領をネットで“面白い人”扱いする大きなリスク…専門家は警鐘「脅威を見落とす」

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プーチン大統領をネットで“面白い人”扱いする大きなリスク…専門家は警鐘「脅威を見落とす」

(写真:アフロ)



ロシアが、ウクライナへの侵攻を開始してから2週間近く経った。しかし停戦交渉に進捗はなく、いまだ終わりの見えない状況が続いている。

3月9日の『ロイター通信』によると、これまでウクライナでは516人の市民が死亡。そして、908人が負傷したという。また4日にはロシア軍がウクライナ南東部にある国内最大規模のザポリージャ原子力発電所を攻撃。火災が発生したとも報じられた。

そんななか、日本人の間では思わぬ反応が相次いでいた。それは侵攻の“首謀者”とも報じられているウラジーミル・プーチン大統領(69)を面白おかしくネタにしてきた自らを戒めるというものだ。


ネットでは《プーチンさんって、ネット上でネタ的に消費されてきた側面あるよね…。うっかりそれで親近感覚えてしまってたのを反省している》《おそろしあとかプーチンをネタとして消費しがちだったけど反省》といった声が上がっていたのだ。

「これまでネットではプーチン大統領の冷徹な性格や、鍛え上げた肉体がたびたび話題に。日本ではその姿を『怖すぎる!』と逆に面白がり、ネットを中心にネタとして消費する動きがありました。また秋田犬と戯れる様子や冗談好きといった“ギャップ”を楽しみ、『かわいい!』と感じる人も。このようにプーチン大統領を“コンテンツ”として楽しむ風潮は、ネットだけでなく漫画やお笑いの世界にも見られます」(全国紙記者)

日本の“プーチン人気”は海外メディアに、奇異に映ったようだ。例えば香港の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は’18年12月、「プーチン大統領のカレンダーが日本で大人気」との記事を掲載。「シリアでの紛争やウクライナでの暴力、イギリスで発生した元ロシア人スパイの暗殺計画などにプーチン大統領が関与していると、ほとんどの日本人は知らないのだろう」と指摘している。


“面白いネタを提供する人”としてのプーチン大統領のイメージは今、崩れつつある。プーチン大統領を“ネタ”として消費してきたことの弊害が今になって現れているのではないだろうか。そこで、メディア論を専門とする成蹊大学の伊藤昌亮教授(60)に話を聞いた。

■かつての仮想敵国から一転…ネタ化の土壌が培われた背景
まず伊藤教授は「ネタ化が起こる背景に、2つのポイントがあります」といい、こう続ける。

「一つ目はロシアに対する感情です。もともとソ連は長い間、日本の仮想敵国でした。北方領土問題もあり、’83年にアメリカのレーガン大統領が『悪の帝国』と呼んだことで日本もそれに追従する流れがありました。

ところが90年代以降に一変し、中国や韓国が日本と敵対する国、いわゆる“反日国家”といわれることに。
すると次第に、ロシアは親日的なイメージが強くなっていきました」

’17年4月、フィギュアスケートのエフゲニア・メドベージェワ選手(22)が『世界国別対抗戦エキシビジョン2017』で漫画『美少女戦士セーラームーン』の主人公・月野うさぎになりきって演技をして話題に。’18年5月には、アリーナ・ザギトワ選手(19)が秋田犬のマサルをもらって喜ぶ姿がメディアを通して何度も伝えられた。

また’16年12月18日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)では「ロシア、特に極東では、日本はなかなかチャーミングに映っているみたい」「ウラジオストクあたりで走っているのはオール日本車」とゲストの武田鉄矢(72)が“ロシアの親日ぶり”を話すシーンもあった。

「ロシアは、かつての日本にとっての強みだったサブカルチャーや日本車を認めてくれる。いっぽう中国や韓国は、サブカルチャーや自動車産業で日本をどんどん追い抜いていく。そこでロシアに親近感をいっそう覚えるのでしょう。ある種、文化的にも経済的にも優越感を抱いていると言えるのかもしれません」

さらに、もう一つのポイントは“プーチン大統領のキャラクター”だという。

「権威的な人物が、同時に反権威主義的なところを持ち合わせていると、大変人気が出やすいんです。
プーチン大統領も権力を振りかざしますが、そのいっぽう“悪ガキとして評判だった”という悪童伝説もあります。権威に楯突くところがあるんですね。例えば中国の習近平(68)のように権威主義一辺倒だと、シンパシーの余地がないんです」

またプーチン大統領には秘密警察・KGBのスパイだったという過去や、柔道の有段者という一面もある。

「日本のアニメや漫画は、戦争や格闘ものといった“戦闘サブカルチャー”がたくさんあります。日本人の多くは“戦闘サブカルチャー”に親しみを覚えながら育ってきた上に、柔道は日本発祥のもの。親近感を持ちやすいんですね。

また、親近感には“コミカルさ”も重要です。プーチン大統領はカレンダーで半裸になったり、動物に乗ったりとコミカルに映るところがあります。
もともとの親近感にくわえて『ものすごく力を持っている怖い人。でも、結構面白い』というイメージも付きやすく、ネタにしやすかったのだと思います」

■「脅威を見落としてしまう。政治家もネタに乗ってくる」という弊害

ではプーチン大統領を面白おかしく消費してきたことに、弊害はあったのだろうか?そう訊ねると、伊藤教授はこう答えた。

「ネタ化するということは、単純なキャラクターとして見るということです。そこで、プーチン大統領の持つ“複雑さ”を見る目がそがれてしまったのではないでしょうか。

軍事侵攻したことで今、メディアはプーチン大統領のことを“おかしな人”として扱い始めています。ですが、政治という複雑な世界に長く身を置く人が、はたして“おかしな人”のままでずっといられるでしょうか。これもまた一つのネタ化と言えるでしょう」

さらに伊藤教授は、こう投げかける。


「ネタとして消費することで、プーチン大統領の複雑さを見なかった人もいるのでは。そうして、脅威を見落としてきた人も多数いるでしょう。その結果として、今の状況があるとも言えるのではないでしょうか」

さらに伊藤教授は「ネタ化することで、政治家が乗ってくるケースもある」と指摘する。

「世論がキャラ付けをすると、政治家はそのイメージに乗っかって人気を取ろうとします。そして世論はキャラクターを通じて、政治家を受け入れてしまう。いわゆる“イメージ戦略”ですね。ポピュリズムの政治家は、みんなそういうものです。

ネタとして面白がるうちに、恐れが中和してしまう。
そうすることで、安心してしまう。すると、キャラクターにそぐわない部分は見えなくなる……。

政治家と世論の関係がキャラを通じてできあがるというのは、怖いことですよ。その背後で、色々なことが進んでいきますしね」

■ネタ化自体は問題ではない。それでも……

政治家は、私たちの生活に深く関係している。国のあり方や経済のこと。その思想に影響を受けることもあるだろう。そんな彼らをネタとして面白がったりキャラクターを通して認識することは、彼らの本質を見ないで理解することにも繋がるかもしれない。「政治家をネタのコンテンツとして面白がること、それ自体を大きな問題とは思いません。何を面白いと思うのかは、人それぞれ。面白いものは、面白いのですから。

ただ“面白い人”として扱っていくにつれ、『もしかしていい人かも?』と好意的に思ったり。距離をとって面白がっているつもりでも、気づけばその政治家に没入していることもあるでしょう。“距離をとる”って、実は相当難しいことなんですよね」

政治家に関する情報に対して、いっそう慎重であるべきと言えるのかもしれない。

「政治は利害対立や様々な計算の上で成り立っており、複雑そのものです。国家に関していうと、それほど複雑なものを1人の指導者が調整しながら決断を行っています。ですから、それを単純化すると背後の複雑さが見えなくなってしまう。複雑なものを見続ける努力をしていく必要があるでしょう」

伊藤教授は「プーチン大統領を面白がっていた人たちも、『面白いネタを提供してくれる、面白いおじさんがいるんだな』くらいの受け止め方だったはず」と推測。それでも「複雑さを見失っていないか。『単純化して、解釈しているだけなのでは』と、自分の見方を疑うことは大切です」といい、こう続ける。

「『ネタにして面白がってただけなのに大袈裟』と思われるかもしれません。それでも自分が持っている情報以外も見ていくようにする。よくわからないものはよくわからないものとして、単純化しすぎないようにする。すると『プーチン大統領は面白いおじさん』という認識に歯止めをかけることが出来たのかもしれません。

とはいえ『誤った認識をしない』と気をつけていても、個人の心構えで何とかなるものとも思えません。メディアの報じ方やネットリテラシーという側面でも、考えられるべきテーマかもしれませんね」

これからはいっそう、プーチン大統領含め、様々な政治家の本質を見極める必要があるだろう。

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