「猛暑での節電要請」背景には円安による火力発電のコスト増
猛暑のなか行われている節電要請。一歩間違えれば、熱中症で命を失いかねない状況となった責任はどこにあるのか?その裏に政府のずさんなエネルギー政策があった。
全国各地で記録的な暑さを観測した6月下旬。関東甲信の梅雨明けが発表された同月27日には、東京電力管内に「電力需給ひっ迫注意報」が初めて発令された。
今夏の電力不足への懸念が高まるなか、政府は7月1日から全国規模で「節電要請期間」(9月末まで)をスタートさせている。岸田文雄首相(64)は、節電に協力した家庭に2千円分のポイントを付与する「節電ポイント」を始める方針だが……。
経済学者で、同志社大学大学院の浜矩子教授がこう語る。
「東日本大震災から電力政策を見直すチャンスが幾度もあったにもかかわらず、岸田政権を含む歴代の政権が、なんら手立てを講じてこなかったのが今回の電力ひっ迫で露呈しました。
節電ポイントなどの場当たり的な対応で、本質的な問題をごまかしているといっていいでしょう」
しかし、エアコンをつけっぱなしでなければ過ごせないこれだけの酷暑。電力不足もしかたがないと思う人も多いのではないだろうか?
「世界各国で異常気象は起きていますが、そのせいで電力不足になっているのは日本ぐらいです」
そう語るのは、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長だ。そもそも「節電要請期間」は今回が初めてではない。2015年夏にも関西電力や九州電力の管内で電力供給が厳しくなったことから実施されている。つまり、7年前から猛暑時の電力不足の問題は顕在化していたにもかかわらず、有効な手は取られなかったことになる。
■エネルギー高・円安で厳しくなった火力発電の経営
電力が不足している背景には、全国で火力発電所の廃止や休止が続いていることがあるという。2016年から2020年までの5年間だけで、原発10基分にあたる約1千万キロワットの発電量が、火力発電所の休廃止で失われている。
「火力発電所が“もうからない発電所”になったことが要因です。
燃料となる石炭・石油・天然ガスの価格そのものが上昇したことと、さらに政府が行ってきた円安政策によって、燃料を輸入し、発電するためのコストが高騰したのです」(浜教授)
電力会社としてはコストの高騰分を電気料金に転嫁して回収したいところだが、利用者の負担が大きくなりすぎないように、燃料価格の上昇分を料金に上乗せできる上限は法令で定められている。「その結果、火力発電の利益は少ないので、老朽化した発電所は休廃止されてしまう。また、新規発電所の増設や改修などの設備投資も行われにくい。こうして発電量が失われてきたのです。株価さえ高ければいいというアベノミクスにはじまる量的緩和で円安を推し進めてきたことが、このような事態を招いているのです」(浜教授)