2022年7月10日 06:00
3代渡って通うお客さんも 名物立ち食いそば女性店主が見てきた人生模様
「うちの一番人気は、今も注文のあった天玉そば。天ぷらに卵で、一杯で栄養も満点でしょ」
〈サイフ、マスク、カバン、スマホ、カサを忘れないで!〉
立ち食いそば屋らしい店内の張り紙の脇に、6月末、こんな新しいメッセージが掲げられた。
〈吉田屋そば店は、2022年7月31日を以て閉店いたします。46年の長きにわたり、ご愛顧いただき誠にありがとうございました。吉田屋そば店主草野彩華〉
ふうふう言いながらそばを食べていた男性客が言う。
「おばちゃん。このお店、7月で終わっちゃうんだって?残念です。学生のころからだから、もう10年以上、通ってたのにな」 「私たちも、本当に残念なの」 「区画整理だそうですね……ごちそうさま。
また来ます」 「まいど。最後までよろしくね」
彩華さんは、1歳のときから、ここ馬場で育ってきた。そば屋を始めてピーク時には1日800杯を供したというから、最盛期ということを差し引いても、700万回近くのお客との交流があったことになる。それだけに、閉店は自身にとっても「断腸の思い」であり、その心労もあってか、6月初めには緊急入院もしたという。
「心の故郷」ともいえる高田馬場での生活も残りわずかとなった今、立ち食いそば屋のカウンター越しに目撃してきた半世紀にわたる学生街の変遷を語ってもらった。