2023年5月28日 06:00
暗闇に負けない!希望の調べ 全盲のバイオリニスト・穴澤雄介さん
プロの音楽家として「私だけのスタイル」を探してきた穴澤さん(撮影:高野広美)
「ここですかね?」
開場前のステージで、この日の主役でバイオリニストの穴澤雄介さん(48)が立ち位置を確認する。
客席側から「時計と反対回りにあと10度ほどです」と返すのは、彼が毎日配信しているYouTubeチャンネルの撮影担当者だ。
東京・御成門のピアノ・カフェ「ベヒシュタイン」でのこの公演も第一部が生配信される。
定位置を決めた穴澤さんは足元に木製の棒をテープで固定した。
「踏んだ感覚でわかるようにティンバレス(太鼓の一種)のスティックを貼って、立体的な印をつけるんです。これがなかった時分には、ステージから落ちてしまったことがありました……」
午後1時、来場者の視線がサングラスにカウボーイ・スタイルの穴澤さんに降り注ぐ。その右手の弓が弦の上を行き来し、明るく軽やかなメロディを奏で始めた。
オリジナル曲『海峡を渡る風』では、指で弦をはじくピチカートという技法を用いて、津軽三味線のような鋭敏な音色を刻んで観客のテンションを引き上げる。
かと思えば手を止めて口笛を吹いたり、オタマトーンなる珍しい楽器でアニソンを愉快に奏でたり。