2023年9月27日 11:00
蛭子さん“最後の展覧会”制作現場の挨拶は「毎回『初めまして』」
パーティの少し前に会場に入った蛭子さんが、白壁に並べられた作品をひとつずつ見ていく。
かつてのタッチとは趣きが異なる蛭子さんの絵。色鮮やかなキャンバスに、クネクネと曲がりくねった線、無造作に打たれた点、不思議な形の物体、さまざまな色を使い自由闊達に絵筆で描かれた作品は、まるで抽象画のようだ。
「これは誰の絵ですか……?」
と蛭子さんはぽつり。
認知症の症状は、ゆっくりだが確実に進行していく。
「蛭子さんが描いたんですよ」
と、わたしが伝えると、蛭子さんは少し不安な顔つきをした。
昨年秋から今夏にかけて約1年間、展覧会に向けてキャンバスと向き合った記憶はすでに消えているーー。
やがて会場に、古くからの知り合いが集まりだした。
「蛭子さん、久しぶり。オレが誰だかわかる?」
「すいません、まったく覚えていないんですよね……」
申し訳なさそうに頭をポリポリ。集まったのは40年以上前からの仲間たち。覚えていないと言われた人は「ま、いいか」と複雑な笑みを浮かべるしかない。
認知症の代表的な症状はもの忘れ。記憶がすっぽり抜けること。タレントになる前の漫画家時代を思い出せないのかもしれない……。