「日本人は『人に迷惑をかけない』を優先します」フランス出身女性・佐々木イザベルさんが日本での就職を選んだ理由
ホタテ漁師・佐々木淳さんと結婚したイザベルさん(撮影:夛留見彩)
ルネサンス期を代表する画家・ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』。愛の女神の誕生シーンを描いた歴史に残る名作だが、大きなホタテ貝とともに描かれており、ホタテ貝は豊穣の象徴だという。自然や心の豊かさを求めて、フランスから日本にやってきた佐々木イザベルさん(43)。東日本大震災がきっかけとなり、岩手県大船渡市に移住した彼女は、この地で思いがけず“愛”とも出会うことになったーー。
真っ青な海面は、ゆらめく波光でようやく水平線の位置がわかるほど、日本晴れの秋空に溶け込んでいた。リアス式海岸の入り組んだ岩場が切れたあたりで地形は緩い湾形となり、その最奥部に漁港の船着き場が見える。
岩手県大船渡市三陸町、越喜来湾にある小石浜漁港から、一艘の漁船が出ようとしていた。
「シェリ、ペンズレ上げて!」
日に焼けて、顔に皺を刻んだ海の男が大声で呼びかける。
「ウィ(はい)!」
歯切れよく返事をしたのは白い肌にブロンドの髪。ヨーロッパ系とわかる長身の女性だ。シェリとはフランス語で愛する人への呼び名。
ペンズレというのは、コンクリートの岸壁にぶつかって船体が傷つかないように、船の縁をカバーするクッションのこと。