ダウン症の俳優・吉田葵(17) 「七実ちゃんが言えなかった」プロのダウン症俳優が生まれた瞬間
翌日、安田さんはプロデューサーに呼び出された。
「プロデューサーから言われたのは、『お芝居を教えてあげてほしい』『ダメなことはダメと厳しく言ってほしい』、そして『(先日の撮影が)できていなかったことを伝えてほしい』ということでした。その日からですね、一人の俳優としての葵をサポートすることになったのは。実は、それまでは葵が気持ちよく撮影に臨めればいいと思って、高価な撮影機材や小道具に触ったり、『本番!』がかかってからおしゃべりしていても注意しなかったんです。現場のスタッフにも、しょうがないという空気がありましたし……」
安田さんの仕事は、現場のルール、しきたりなど教え、葵を一俳優として育てることに変わった。
「葵はダメと言えばしなくなるんです。ただ、ほかのスタッフが許しちゃう。僕からもスタッフに『ダメなことはダメと言ってほしい』と伝えてもらいました」
スタッフの間で葵に対してどう対応していくか話し合った結果、現場は、いきなり厳しくなった。
「極端な話ですが、特別扱いをしないでくれと言うと、今度は、付き合い方がわからなくなってしまうんです」
演技については、知的障がいがあり、時間や数字が苦手な葵にさまざまな方法を試したという。