86歳現役のイラストレーター・田村セツコさんが語る「母と妹のW老老介護」
そこで『明日の朝までに描ける?』と聞かれたから、私は『もちろんです!』と」
徹夜で仕上げて、その増刊号が発売になった途端だった。
「8つもの名だたる出版社から、『ウチにも、あんな絵を』とオファーが押し寄せたの。ようやく、やりたいことができるんだと安堵すると同時に、人生、何がきっかけになるかわからないと。私にチャンスをくれた、そのご病気をしてしまった先生には、いつもひそかに感謝しています」
22歳で『りぼん』のおしゃれページで連載がスタートしたのを皮切りに『なかよし』や『小説ジュニア』などでも活躍。30歳になるころには、彼女の描くイラストをあしらった文房具などの、いわゆる“セツコグッズ”が日本中を席巻。やがて前出の『いちご新聞』連載や、名作童話の装丁など仕事の幅も広がっていった。
ところが、順風満帆なイラストレーターとしての生活が続いていた52歳のとき、父親の一雄さんが突然倒れる。ここから、田村さんの長い家族介護の日々が始まった。
「脳梗塞でした。父は病院のベッドでチューブにつながれてという、当時の典型的な延命措置を施されたケースでした。病床で娘の私に『家に帰りたい』と漏らしたときの切なさは忘れられません。