「幸せだね。ありがとう」冷たくなっていく1歳9カ月の息子の体を抱いて
ホスピスでは、親子で記念の手形と足型もとった
母親なので適合するんじゃないですか」
思わず日本語で叫んでいた。しかし、医師は暗い面持ちでこう答えたという。
「体力のない夕青ちゃんはおなかを開いた時点でアウトです」
愕然とする千尋さんに、病院の副院長が懇々と諭した。
「こどもホスピスで最期の時間をよりよく過ごしては――。見学だけでも行ってきてはどうですか」
「ホスピス……」
当時の千尋さんには「死を待つだけの場所」というイメージがあった。絶望した気持ちで、なすすべもなく夕青くんのそばでうなだれる千尋さん。しかし、夕青くんはぐったりしつつも、小さな声でこんなふうに言ったのだ。
「おうち、かえろうか……」
食べることもできず、話すことも少なくなっていた幼子の魂の訴えだった。
■冷たくなっていくわが子に寄り添って……
夕青くんにとって帰る家といえば鯖江市の実家。しかし、「もはやフライトに耐えられる状態ではありません」という医師の診断もあり、千尋さんは「治療を諦めるわけではありません」と医師たちには念を押したうえで、デュッセルドルフにあるこどもホスピス「レーゲンボーゲンラント」へ向かうことにした。