“デジタル終活”せずに3千万の借金を背負った人も…税理士に聞いた悲劇のエピソード3つ
スマホのパスワードが分からなくてーー「ネット預金がおろせないだけじゃない」(写真:genzoh/PIXTA)
「デジタル終活って、現金派の私には関係ないわよ」
そう思っている人が多いのでは。
「いいえ、デジタル終活は誰もが無縁ではいられない問題です」
そう話すのは、ビットコインなど暗号資産の税務に詳しい税理士の坂本新さん。「いまや相続経験者の4人に3人がデジタル金融資産を相続しています」と言う。
故人の年代別では、40代以下は全員、60代で93%、70代でも81%がネット銀行などのデジタル金融資産を相続するそう(2025年9月、GOODREI)。
「デジタル金融資産を持つのはもはや普通のことですが、相続まで考えていない人が多い。デジタル金融関連の相続トラブルが増えています」(坂本さん、以下同)
3つの事例からトラブルの対処法などを坂本さんに聞いた。
【1】親にデジタル資産があるとは
母・Aさんの葬儀の後、ひとりっ子のBさんがAさんのスマホを確認しようとしたが、生体認証でロックされ開かない。しかも、銀行通帳も見つからなかった。
財布にあったキャッシュカードの口座残高は100万円ほど。Bさんは「生活が厳しそうだった」と納得したという。
だが1年以上たって、税務署から連絡がきた。「多額の資産があるのに相続税が未納だ」と言う。
実際、税務署がいうネット証券にAさん名義の資産が約4千500万円あった。資産から3千600万円(基礎控除3千万円+相続人1人×600万円)が控除されても、残り900万円に相続税が必要だ。
「スマホが開いて母の投資に気づけたら、延滞などしなかったのに」とBさんは悔しがる。相続税は原則亡くなった翌日から10カ月以内の申告が必要だ。
Bさんは相続税90万円に加え、無申告加算税13万5千円と延滞税3万4千200円も納めたという。
「スマホはパスコードがわかれば開けます。また、利用するネット金融の名称やアカウントなどがわかれば、問い合わせができます」
スマホに少額のデジタル資産を持つ人は多い。モバイルSuicaなど交通系アプリの残金や、航空会社のマイル、PayPayなどコード決済の残金など。多くは相続可能だが、スマホが開かなければ没収されるも同然だ。
【2】死後もサブスク料を払い続け
C美さんの死後、年金の停止やスマホの解約などを終えると、子どもたちは実家の片づけをいったん先送り。半年後、改めて家探ししたら、古い通帳が1冊見つかった。銀行に問い合わせると、C美さんの口座がやっと判明した。
C美さんは大きな資産は持っていなかったが、YouTubeのプレミアムプランやネットフリックス、ネット英会話教室など、多くのサブスク契約があり、死後も引き落としが続いていたという。
子どもたちは「サブスクを早く解約しておけば」と悔やむが「ネット銀行の利用を知ることが先決」と坂本さん。最近、ネット通帳に切り替えるユーザーが多いという。
「ネット通帳もサブスク契約なども書類がないことがほとんど。契約内容をメモすることが大切です」
■110%という相続額を超える税金が必要に
【3】父の暗号資産を相続放棄
Dさんは2013年に当時話題のビットコインを購入。1ビットコイン(BTC)=6千円で、60万円分、100BTCを購入した。
だが、2014年にビットコインの取引所、マウントゴックスが預り金を大量消失し倒産。ユーザーの資産も凍結され、Dさんも100BTCをあきらめるしかなかった。
ところが、2024年ごろから凍結が解除。Dさんにも100BTCが戻ってきた。折しも2025年は1BTC=1千800万円の最高値をつけ急騰中。Dさんは一気に億万長者になったが、持病が悪化して急逝。死亡日は1BTC=1千400万円で、遺産は14億円に及んだ。
娘のEさんが14億円相当のビットコインを売却すると、暗号資産は雑所得に当たるため、所得税45%と住民税は10%、合わせて55%の納税が発生。しかも、相続税も最高税率の55%が必要だ。
つまり14億円の相続に対し、所得税と住民税、相続税を合わせて110%という相続額を超える税金が必要になる。
概算で納税額は14億3千万円となり、Eさんは約3千万円を借金して用意する必要が。Eさんは相続を放棄した。
「暗号資産は現在『総合課税』の扱いです。令和8年度の税制改正大綱に『’27年以降、暗号資産の利益には一律20%を課税、分離課税とする』と方針が示されました。これが実現すると、Eさんのような悲劇は起きません」
仮にDさんが存命中にビットコインを売却すれば、どうなった?
「暗号資産の売却金から購入資金を引いた利益に所得税と住民税がかかりますが、6億円ほど残るでしょう。その6億円をEさんが相続すれば、相続税が55%としても相続放棄の必要はなかったかも」
Eさんが父の暗号資産を知らず、相続税を申告しなかったら……?
「相続税は10カ月以内に申告が必要なので、税務調査が入るかも。ただし死後3カ月を過ぎていると相続放棄はできません」
デジタル終活は、何から始めればいいのだろう。
「スマホのパスコードなどを控えましょう。
エンディングノートを活用するなど、家族にわかりやすい方法がおすすめです」
残すべき情報はチェックリストのとおり。アナログで記録を。
「デジタル資産が一切なくても、スマホが開けずLINEが見られないと、故人の交友関係がわかりません。誰にも連絡できず、さみしい葬儀になってしまいますよ」
デジタル終活は人ごとではない。今すぐメモから始めよう。
いまや60代でも93%の人がデジタル金融資産を相続するという。デジタル面での「終活」をしていないと、莫大な借金がのしかかってくることも。しっかり備えよう。