「自分を大事にすることにつながる」大和田獏 妻・岡江久美子さんと死別から5年…“ひとりの食卓”公開した理由
過去には料理番組にも出演していた大和田獏さん。そこで交流したプロの料理人から大いに学んだという(写真:水野竜也)
「お涙ちょうだいみたいな話じゃないんですよ」。そう獏さんは笑う。突然の妻との死別で“ひとりごはん”になって5年だが、豊かな食生活を送っているという。その充実ぶりは本が出るほどで……。
■「娘の勧めでインスタグラムを開設」
「新婚のとき、近所にあった魚屋さんに鯛たいのかぶとがあって、女房が『おいしそうね』って言ったら、魚屋さんが『持っていきな』って、タダでもらったんです。それで『鯛のかぶと酒蒸し』を作ってくれたんですが、あまりにおいしくて、『また(魚屋に)行っといでよ』と言いました(笑)」
「いまは自分で作っています。この本にも載せたのですが、女房が当時作ってくれたレシピからほとんど変えていないんですよ」
そう語るのは、昨年の11月28日に『ひとりごはんも愛しいばくうま ばくめし』(ブティック社)を出版した大和田獏さん(75)だ。
2020年4月、妻・岡江久美子さんの急逝でひとり暮らしになった獏さん。
コロナ禍で外出もままならないなか、ひとりでの自炊生活が始まった。
「娘(女優の大和田美帆さん)が心配するので、『こんなの作ったよ』って、料理をスマホで撮って送っていたんです。そうしたら娘が『ちゃんと作れているから、インスタグラムでも始めて、料理をアップしてみたら?』とすすめられて……。
2020年9月にインスタグラムのアカウントを開設。自らの料理を“ばくめし”と名付け投稿したところ、大きな反響があった。
「見てくれた人が反応してくれるのが、本当にうれしくてね。この本も、インスタグラムを見てくださった編集者の方からオファーがあって出版することになりました」
■「台所に立つことは自然なことでした」
書籍の中には、獏さんが考案したものだけではなく、岡江さんや獏さんの母の思い出の味のレシピが掲載されている。
「父母は戦前戦中に中国のハルピンに住んでいました。
当時のハルピンにはロシア人が多く住んでいて、そこで料理を覚えたお袋はよく中国やロシアの料理を作っていました。だから、ぼくのお袋の味は『ボルシチ』です。ボルシチの赤色は本来はビーツによるものなのですが、当時はビーツが手に入りにくく、ケチャップで赤を出していました。今もケチャップで作ったもののほうが好きなんですよ。
子供のころから台所に出入りしてお袋の手伝いをしたり、味見させてもらったりしていたからでしょう。俳優デビューして東京に住むようになると、『お袋が作ってたあれを食べたいな』と見よう見まねで料理をするように。
だから、結婚したあとも、台所に立つことは自然なことでした。料理は主に女房が作ってくれましたが、そこに一品を作って追加したり、彼女が遅いときは夕食を作って待ってたり……。
2人で台所に立つことも多かったですね。
でも、男が料理するからといって、ありがたがられたかといえば、そんなことありません。
女房の父も料理の上手な人。付き合い始めたころ、彼女のお宅に行くと、お義と父うさんが中華を作ってくれたりもしました。だから、女房にとって、男が台所に立つことは普通のことだったんでしょう。そんな妻の両親との思い出の料理も本で紹介しています。
ぼくの故郷の福井県敦賀市は港町で、洋食に触れる機会の多い町でした。ぼくが特に好きだったのが『ポークピカタ』。
でも、いざ作ってみると、卵がはがれてしまったり、火が通らなかったり、失敗の連続でした。本当に試行錯誤して、お肉焼いておいて、その後に卵を焼いて、上にのっけるレシピを考えました。
妻の両親に初めてふるまったのもこのポークピカタでした。お義父さんもお義か母あさんも『おいしい、おいしい』って食べてくれてね」
お酒に合うおかずが多いことも、獏さんのレシピの特徴だ。
「ぼくも妻もお酒が大好き。行きつけのお店に焼酎のボトルキープをしていたほどです。ボトルにはぼくと妻の名前の久美子を合わせて『ばくみ』と書いていましたね。
自宅での夕食も晩酌しながら食べるスタイルだったので、おかずが中心で、ごはんがないんです。
娘の友達が遊びに来たときに、「うちの晩ごはんと違う。飲み屋みたい」と言われたことも(笑)。
ぼくのお袋がうちに来たときも、『ごはんは食べないのかい?』と言われて、女房が慌てて『ごめんなさい。今から、ごはん炊きます』『いいの、いいの』といったやりとりもありましたね。
ぼくたち夫婦は基本的に食べることが好きで、食べ物の好みが似ていました。よく一緒に外食しておいしかったものは、家で再現したりしていました。ひとりの生活になって、生活も変わった。朝食は抜かないようにしている。
昼食は外食するか、舞台の稽古などがあるときは弁当を自作することもあるという。夕食はひとりお酒を飲みながら、自分の料理に舌鼓を打っている。
もう自炊は日常になりました。家には常にカニカマ、ツナ缶、油揚げを常備しています。ちょっと手を加えるだけでおいしい副菜ができるんです。
ときどき、遊びにくる孫に料理を食べさせることも。孫が小さかったころ、野菜が苦手で、食べやすいようにとブロッコリー、マッシュルーム、玉ねぎをみじん切りにして、鶏ひき肉と炒めたのが「鶏ひき肉のケチャップ炒め」です。僕のオリジナルといえるかな。
とても便利で、サラダの上に置いて一緒に食べてもいいし、ごはんの上にのせると丼になるし、卵に入れるとオムレツになるんです」
■「人生に意味のないものはない」
「生前、女房はよく『人生で意味のないものはない』と言っていました。娘はそれを『母の死もきっと何か意味があって、私に何かを教えてくれているんだ』と考えて、女房の死を乗り越えたみたいです。
きっと、料理にも意味がある。『ばくめし』は自分のために作っているんだけど、それは自分を大事にすることにつながっていると思うんです。一食一食を愛いとおしんで食べることは、自分を大事にすることにつながる。
そして自分を大事にできると、他人のことも大事にできる。そんなふうに料理を作ることや食べることから愛おしんでいると、生きているすべてのものが愛おしく感じるんです。年を取ったってことかな。ま、年を取ることも悪くないなって思いますね(笑)」
記者もレシピどおりに「ばくめし」を作ってみた。どれも食材本来の味を生かしたバランスのとれた絶品。獏さんのやさしさが詰まっているようだった。
【INFORMATION】
『ばくうま ばくめし』
ごはんものや麺はもちろん、おかずになるつまみや副菜、旬を楽しむレシピや作りおきまで、獏さんの幅広いレシピを紹介!
刊行:ブティック社
価格:1,650円(税込)