寿退社、2回以上の転職、引越しが多い…当てはまる人は「貰えていない年金」が存在するかもしれないワケ
(写真:アフロイメージマート)
終身雇用にとらわれない働き方が広がるなか、定年を待たずに、50代あるいは40代で退職し、フリーランスになるという人もいる。
だが、会社を辞めた後、必要な手続きをおろそかにしたばかりに、60歳から受け取れるはずの年金が貰えなくなってしまった、という事態が起きているという。
「特に、転職を繰り返している人にありがちなのが、手続きの後回しです。年金というと、1階の国民年金、2階の厚生年金のことばかり注目されがちですが、導入する企業が増えている企業型確定拠出年金(DC)、確定給付企業年金(DB)のほか、厚生年金基金、国民年金基金など、『3階部分』と呼ばれる年金があります。
この3階部分について、給料で天引きされていることを知らない、という人も意外と多く、退職時の手続きを怠ると、本来受け取れる年金を貰いそびれるケースもあります。老後の資産設計が狂いかねないので、注意が必要です」
そう話すのは、税理士の山本宏さん。老後資金をはじめお金の手続きのアドバイスをするなかで、年金の“貰いそびれ”をしている人は少なくないという。
せっかく保険料を納めたのに年金を貰いそびれるなんて、なんとしても避けたいところ。
今回は山本さんに、注意すべきケースを解説してもらった。
■CASE1:転職を重ねるうち寝筋を“放置”
IT企業で転職を繰り返していた会社員のAさん(58歳)は、最後の会社をコロナ禍で退職し、フリーランスで仕事を始めた。
その後あるとき、自身の老後資金について点検していたところ、ショッキングな事実に直面する。
「退職後、厚生年金から国民年金に切り替えるために年金事務所で手続きをしましたが、それで手続きが完了したと勘違いして、企業型の確定拠出年金(以下、企業型DC)の存在をすっかり忘れていたんです……」(Aさん)
山本さんが解説する。
「企業型DCに加入していた人は、退職してから6カ月以内に、転職先の企業型DC、もしくはiDeCo(個人型確定拠出年金)に積み立てたお金を移す手続きをする必要があります。
転職や退職の際は忙しさにかまけて手続きを後回しにしてしまいがちですが、6カ月が過ぎると、その資産は自動的に『国民年金基金連合会』に移されます。これを『自動移換』といい、“放置年金”とも呼ばれて、社会問題になっているのです」
国民年金基金連合会の資料によると、’25年3月末時点で、該当する人は約138万人、放置年金の総額は3千361億6千100万円にものぼる。
いったん自動移換されると、資産は国民年金基金連合会の預かり状態になるので、運用はできなくなる。
さらに、自動移換された時点で4千348円の手数料が引かれ、その後も毎月52円(今年4月以降は98円)の手数料が引かれ続ける。近年インフレが進むなか、老後資産がみるみる“目減り”していくことに……。
「さらにネックなのは、確定拠出年金は原則として加入期間が10年以上ないと、60歳から受け取ることができないのです。自動移換されている間は、この期間に含まれません。加入期間が2年未満の場合、最短でも65歳からの受給となります」(山本さん)
Aさんのケースでは、会社員時代の加入期間が5年あったため、企業型DCは63歳以降に受給が可能となる。2022年の制度改正で、60歳以降(64歳まで)もiDeCoに加入し続けるという選択肢もできたが、会社員として働く、もしくはフリーランスの場合なら国民年金の任意加入被保険者になる必要がある。
コロナ禍以降、収入が減っているというAさんは「早く受け取れたら助かるのに」と嘆く。
自動移換になると国民年金基金連合会から「自動移換通知」が送られてくるが、転居している場合など、受け取れない恐れもある。
「企業型DCの有無は『ねんきんネット』で確認できます。心当たりのある人は、自分の資産が『持ち主不明』になっていないかチェックしておきましょう」(山本さん)
年金を貰いそびれるケースはほかにもある。いまは専業主婦だという人も注意が必要だ。
■CASE2:妻が会社員時代の「厚生年金基金」
年に一度、誕生月に届く「ねんきん定期便」には、国民年金・厚生年金保険料を納めた期間に応じて、老齢厚生年金と老齢基礎年金の見込み額が記載されている。
その金額を見れば、65歳以降に自分がどれだけ貰えるのか把握できるようになっているが、「もう一つ年金に加入していたことをつい最近知った」というのは、Bさん(50代後半)だ。
「結婚前に勤めていた会社の先輩と久しぶりに会ったとき、『勤めていた会社で厚生年金基金に加入していたから、履歴を調べたほうがいい』と言われて。アドバイスどおり企業年金連合会に電話で問い合わせると、たしかに厚生年金基金に加入していました」(Bさん)
厚生年金基金とは、かつて多くの企業で実施されていた企業年金の一つで、’14年の法改正で、実質的に廃止となった制度。現在は、前出の企業型DC、また確定給付企業年金(DB)に移行している。
会社を退職する際、将来受け取る企業年金の原資が「企業年金連合会」に移ったことを知らせる通知が届くのだが、
「結婚後に姓や住所が変わると本人の特定が難しくなり、通知が送られてこないというケースがあるのです。企業年金連合会のホームページからコールセンターに問い合わせるか、ねんきんネットで確認しましょう」(山本さん)
結果、Bさんは厚生年金基金を支払っていたことで65歳から毎年受け取れる年金額が8万4千円アップ。90歳まで生きたとしたら、総額210万円にもなる。勤めていた当時、給与明細などロクに見ていなかったので、加入していたことすら知らなかったという。
■CASE3:第3号→第1号移行後、国民年金を納め忘れ
結婚後、妻が夫の扶養に入ると、手続きは夫に任せて、年金のことはよくわからないという人も多い。厚生年金に加入している会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養される20歳以上、60歳未満の主婦や主夫は、国民年金の第3号被保険者になる。
保険料は自分で納める必要がなく、65歳以降、老齢基礎年金を貰うことができるのだが、問題は扶養に入っている妻の夫が定年退職をしたなどのケースだ。
「その際に妻が60歳未満であれば、妻は第3号被保険者から自営業者などが加入する第1号に移り、60歳まで国民年金の保険料を支払うことで老齢基礎年金を満額で受け取ることができます」(山本さん)
Cさんは、公的な手続きは5歳年上の夫に任せきりで、60歳で夫が定年退職した後、国民年金に加入する手続きを怠っていた。
「65歳になって、受給額が満額でないことに気がついて、愕然としました」と、Cさんは肩を落とす。
国民年金の保険料は、支払い忘れの追納制度があるが、遡って支払えるのは過去2年分まで。10年以内の追納ができるのは、免除や猶予を受けた場合のみだ。
2026年度、国民年金(老齢基礎年金)の満額は月額7万608円。だがCさんは420月しか加入していないので受給額が月約6万2千円にとどまることに。90歳まで生きたとしたら、約265万円の損失だ。
未納分は長期的に見ると大きな“損失”に。国民年金は漏れなく納めて、満額にしておきたい。
■CASE4:60歳以上に“特別支給”の厚生年金
公的年金の受け取り開始は原則65歳からだが、それ以前でも受け取れる場合がある。
「特別支給の老齢厚生年金」は、’66年4月1日以前に生まれた女性、’61年4月1日以前に生まれた男性で、厚生年金に1年以上加入していた場合、60歳から65歳以前に厚生年金の一部を受け取ることができる制度だ。ねんきん定期便に記載されているにもかかわらず、請求し忘れる人がいるという。
「老齢厚生年金と混同されがちなのですが、『特別支給の老齢厚生年金』には、繰り下げ受給の制度がありません。受給できる年齢に達したら直ちに請求する必要があります」(山本さん)
Dさん(71歳)は、過去に5年間会社勤めをしていたことがあり、60歳から65歳まで毎年約3万8千円受け取れるはずだったが、この手続きを忘れて、遡って請求できる5年が過ぎ時効になってしまったという。該当する年齢の人は、ねんきん定期便もしくはねんきんネットですぐチェックを。
せっかく保険料を納めてきた年金。老後資金を少しでも多く確保するために、貰いそびれのないよう、いま一度確認しておこう。