辻元清美氏 日米会談で「高市首相は改正訴えていた憲法9条に救われた」、戦争加担回避させた“憲法の制約”
“媚び外交”とも揶揄されたが、自衛隊の派遣を阻止したと評価する声も(ホワイトハウス公式ホームページより)
「日本国憲法、とりわけ9条の存在が大きかったんじゃないか。9条によって、米側から無理な艦船派遣を求めることにブレーキをかけることができたんじゃないか」
3月25日の参議院予算委員会で、立憲民主党会派の広田一参議院議員はこう指摘した。高市早苗首相(65)は「コメントすることは困難」と9条への評価を避けたが、いまSNSなどでは「9条が自衛隊派遣を止めた」と、平和憲法を再評価する声であふれている。
3月14日、ドナルド・トランプ米国大統領(79)は日本などを名指しし、ホルムズ海峡への艦船の派遣を期待するコメントを出した。しかし、3月20日(日本時間)に行われた日米首脳会談では、報道陣の前で自衛隊の派遣にトランプ大統領は言及しなかった。
「日本の法律の範囲内でできることとできないことがある旨を伝え詳細に説明した」(3月23日参議院本会議・高市首相)ことが背景とみられるが、この“できないこと”の根拠となるのが「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を記した憲法9条だ。
「これまで憲法改正を強く訴えてきた高市さん自身が、今回の首脳会談で、憲法9条に救われたんだと思います。憲法の制約があるからこそ、自衛隊員の命を守れたし、戦火の拡大も防げたのです」
そう語るのは、立憲民主党の辻元清美参議院議員だ。
2024年9月21日の『産経新聞』では、「(現行憲法は)時代に追いついていない。自衛隊を揺るぎなく位置付けるためにも9条改正も急ぐべき課題」と語っていた高市首相。
「しかし、トランプ大統領との会談で、おそらく高市首相は、『本当は協力したいけど、憲法9条の制約があるから出せない』と説明したのではないでしょうか。つまり憲法9条は、“出したいけど出せない”という、外交上の説得材料として機能したんです」(辻元さん)
安全保障が専門のジャーナリストの布施祐仁さんは“出せない”理由をこう解説する。
「ホルムズ海峡に自衛隊を派遣する場合、想定される任務は、主にふたつです。ひとつは海中に敷設されているかもしれない“機雷”の除去作業。ふたつめは、民間のタンカーの護衛です。ただし重要なのは、戦闘が続いている中で行うと、どちらの任務もイランに対する武力行使とみなされる可能性が極めて高い。
つまり、国際紛争の解決手段として武力を行使しないとうたう憲法9条に反することになります」
実際、3月12日の衆議院予算委員会で、高市首相も「正式な停戦合意がなされる前に機雷を除去する行為は武力行使にあたる可能性がある」と答弁している。唯一の例外が“存立危機事態”だという。
「第2次安倍政権が’15年に成立させた平和安全法制の中で“存立危機事態”を新設しました。これは、日本が直接攻撃されていなくても、日本と密接な関係がある他国(アメリカ)への攻撃が、日本の国の存立や国民の生命を脅かす場合には、武力行使が可能になるというものです」(布施さん)
約9割の原油をホルムズ海峡経由で輸入している日本にとって、海峡の安全は生命線だ。
「しかし、日本には約200日以上の原油備蓄がありますから、ただちに存立危機事態に認定するのは現実的ではありません」(布施さん)
3月25日現在、ペルシャ湾内に、45隻の日本関係船がとめ置かれていると報じられている。自民党内からは“特別措置法”を制定し、自衛艦を派遣して日本関係船舶だけでなく他国の船舶も護衛すべきという強硬論も出ているが、前出の辻元さんは「派遣したとしても、むしろ民間船のリスクを高めるだけ」と指摘する。
「民間の船は、国際法上“攻撃してはいけない対象”です。でも、そこに自衛艦が護衛としてついた瞬間に、軍事目標となる要件を満たしかねない。
民間まで巻き添えにする恐れがあります」
もともと良好な外交関係を築いてきた日本とイラン。外交協議による安全確保のほうが、実現する可能性は高いという。
■憲法9条は日本にとって有用な“武器”
布施さん、辻元さんがそろって訴えるのが、「国際法違反の戦争に加担することは許されない」という大前提だ。
「今回アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃は、国連憲章で“違法”である可能性が高い。現在、国際社会で“合法”と認められるのは、国連憲章51条に基づく“自衛権の行使”と、国連安全保障理事会の決議によって武力行使が認められる場合のみです。安全保障理事会の決議もなく、イランが攻撃を仕掛けてきたわけでもない。どちらの要件も満たしていません」(布施さん)
スペインやドイツ、フランスなど、多くの国がアメリカに対し「国際法違反の疑いがある」と指摘している。しかし、高市首相は「(イラン攻撃に関する)法的評価は差し控える」と繰り返すのみ……。
「国際法違反を国際法違反とも言えない、そんな対米従属の政府にもかかわらず、この無法な攻撃に日本は関わっていない。これこそが憲法9条の力です」(布施さん)
一方、「今こそ9条改正を警戒しないといけない」と語るのは、神戸女学院大学名誉教授で評論家の内田樹さんだ。
「『外交上の秘密』ということで、高市首相は帰国後の国会でも日米会談の詳細を明かしていません。高市首相は、『今は憲法9条があるから協力できないが、改正してトランプ大統領に貢献したい』という趣旨のことを伝えた可能性も。『これから、改憲に向けた世論づくりを進めます』と、約束をしていても不思議ではありません」
実際、自民党は、3月26日にとりまとめた2026年の「運動方針案」において、「党是として掲げてきた憲法改正を必ずや実現する」と明記している。9条については「自衛隊の明記」を当面の目標としてきたが……。
「自衛隊を明記しないと国民の不利益になるなら、とっくに改正されていたはずです。そして、これを皮切りに、戦力不保持と交戦権否認の実質的な無効化、集団的自衛権のフル解禁などに進む恐れがあります」(布施さん)
これまで、さまざまな戦争に関わってきた米国。
同盟関係にある多くの国も巻き込まれてきた。
「アメリカにノーと言えない日本が、戦争に加担せずにすんできたのは、まぎれもなく憲法9条があったからです」(布施さん)
辻元さんも「日本の国益にプラスになってきた憲法9条を手放すのはもったいない」と指摘する。
「日本は、憲法9条を“武器”として、外交や人道支援で世界に貢献する国であるべきです」
憲法9条を盾に、戦争でひとりの自衛官を死なせることもなく、ひとりの他国の兵を殺すこともなく、日本は戦後の国際社会をしたたかに生き抜いてきた。憲法9条という有用な“現実の力”を、党是や悲願などの曖昧な理由で変えようとする非現実的な“お花畑思想”は疑ってかからねばならない。