“独身偽装男”に騙され21歳で「未婚の母」に…相手実家・新恋人・勤務先に突撃するも不誠実すぎる対応「なんて男だろうと愕然」
軽井沢の街中をデートするB子さんと加害者のW
「独身偽装」という言葉を聞いたことのある読者も多いだろう。既婚者でありながら「独身」と偽り、異性と交際する行為だ。
2025年12月に東京地裁は、マッチングアプリで知り合った女性に独身と偽り、交際した大手広告代理店の男性社員に対し、貞操権侵害を認め、約150万円の賠償を命じた。男性は、2026年3月末で代理店を退職したという(同社広報担当者は退社の事実関係について「個人情報的観点から、在籍確認などについてもお答えしておりません」と回答)。
その後、検察官、自衛官、テレビ制作関係者などの加害事例などが相次いで報じられている。独身偽装はけっして特殊な事例ではない。巧妙な手口も多く、被害女性が妊娠や出産に至るケースもあるが、その実態はほとんど報じられていない。
本記事では、マッチングアプリで知り合った既婚男性に騙され、妊娠・出産に至った21歳のB子さんが自身を襲った悲劇のすべてを語っている。
■加害者との馴れ初めと、妊娠
「私は20歳で妊娠し、その1カ月後に相手が既婚者だと知りました。すごく動揺し、いろいろと調べましたが、検索して出てくるのは『不倫』や『慰謝料』についての情報ばかり。私が悪いということになるのかと、目の前が真っ暗になったのを覚えています」
こう話すのは、東北地方在住で、2025年12月に女の子を出産したばかりのB子さん(21歳)。新卒で就職後すぐに妊娠が判明。今は会社を退社し、取材時点で生後2カ月になる赤ちゃんと実家で過ごす。短期大学でデザインを学んだというB子さんは、今どきの若者らしい服装で、静かに理路整然と話す姿が印象的だ。
「3年間交際した彼氏と別れて1年くらい経った2024年の秋、生まれて初めてマッチングアプリに登録しました。そこで出会ったのが問題のWさんです。
14歳年上の当時34歳。前の彼氏も同じくらい年上だったので、年齢は気になりませんでしたね」
Wは建設会社で働き、市内のアパートでひとり暮らしをしていた。年齢差を気にして「俺でいいの?」と聞いてくるなど謙虚な様子で、B子さんは好印象を持ったという。
「彼は『自分は結婚願望が強い』『将来は子供が欲しい』という話をさかんにしてきました。私も、母にがんが発覚して手術したばかりだったので、早く孫を見せてあげたいと思ったんです」
交際後すぐ、Wから「結婚しよう」と言われ、最初から結婚前提の交際だった。そして、5カ月後の2025年4月、妊娠が判明する。
「私にはもともと婦人科系の疾患があり、妊娠できる自信がありませんでした。それに、結婚の約束もしていたし、就職も決まっていたので、年齢的には少し早いかもしれませんが“子供ができてもいいかも”と思っていたんです。
入社したての4月に妊娠したのには驚きましたが、それでも、 “これでお母さんに赤ちゃんを抱かせてあげられる”と、とても嬉しく思いました」
Wは、交際を始めて1カ月がたったころから、軽井沢に長期出張していた。そのため週末は、B子さんが東北で暮らすアパートとWの仮住まいの社宅を交互に行き来し、一緒に過ごしていたという。妊娠が判明した時、Wは軽井沢におり、ビデオ通話をしながら妊娠検査薬を使い、陽性反応が出た瞬間を2人で喜び合ったという。
「彼は、すごく喜んでいる様子でした。翌日から『名前はどうしよう』というメッセージや、ベビー用品の画像をLINEでたくさん送ってくれたんです。その後、婚姻届を持ってきたり、婚約して縁起がいい7月7日に入籍しようと言ってきたり、妊娠届の提出や母子手帳の受け取りも一緒にしたりと、結婚しないなんてありえないような態度と行動でした」
■「じつは嫁がいる…」と白状され、押し寄せる現実的な不安に動揺
しかし、妊娠判明の翌月、B子さんを奈落の底に落とす事実が発覚する。
「妊娠後、結婚に向けて具体的な話し合いを進めるなか、5月に入ると彼は『宇都宮に長期出張する』と言い、夜や休日に電話に出なくなるようになりました。ほかにも不審な点があったので問い詰めると、『じつは嫁がいる』と告げられたのです。
当初は浮気や二股を疑っていたのですが、まったく想像もしてなかった出来事に、頭が真っ白になりました」
じつは宇都宮には、妻と2人で住む“本宅”があったのである。そして、かつてB子さんがよく訪れた東北のWのアパートは社宅だったこともわかった。事態を知ったとき、怒りの感情よりも不安が押し寄せて、大きく動揺したとB子さんは言う。
「私、シングルマザーになるのかな、生活はどうしよう、まわりにはなんて言おう……と、パニックになりました。Wさんは『嫁とはずっと仮面夫婦だった』と明かし、『離婚してB子と結婚したい。絶対に未婚の母にはさせない』と主張しました。私はこのことを親にも言えず、ひとりで悩みました」
中絶も考えたが、妊娠中期に入っていた。
「中期中絶は体への負担が大きく、お金もかかります。
妊娠届を一緒に提出しているので相手の同意も必要でした。それに、婦人科疾患を抱えているため、次に妊娠できるかわからないということも考慮しました。もはや彼の言葉は信用できませんでしたし、もし結婚できたとしても、また同じことを繰り返すかもしれません。でも一人では育てられないし、責任も取ってもらわなければならない。赤ちゃんのために私が犠牲になるしかないと悩んだ末、ひとまず彼の離婚を待つことにしたのです」
WはB子さんの両親に挨拶もすませたが、入籍予定日の7月7日が近づいても、離婚話に進展はなかった。
「Wさんは、予定日に合わせるように“高熱で動けない”と連絡してきたんです。呆れましたが、最低でも出産にかかる費用は出してもらわないと、と思いましたし、暴力を振るわれる可能性もあったので問い詰めず、そのまま7月7日が過ぎました。私の妊娠を祝福し、積極的だった彼のそれまでの行動すべてが謎でした」
その後、事態は進まず、Wからの連絡も途絶えがちになり、B子さんは8月末にようやく両親に状況を伝えた。
B子さんの実の両親は離婚しており、相談したのは前年にがんの手術を終えた母と、義理の父である。
「お母さんは“なんかちょっと怪しいと思っていたよ”という反応でしたが、義理のお父さんはすごく怒って、『やつのところに行くぞ!』という話になったんです。私もこのままでは逃げられると思っていたので、一緒に行くことにしました」
■実家への“突撃”の顛末と、同意書の作成
当時、Wは栃木県内の実家に身を寄せていた。スマートフォンの位置情報が共有されたままだったので、実家の住所はわかっていた。B子さんの自宅から約200km、車で2時間半の距離である。義理の父の運転で、B子さんと母の3名がWの実家に向かった。家に到着すると、Wの車が駐車場に停められていた。しかし、チャイムを押すと、階段を駆け下りる音が聞こえたものの、一向に誰も出てこなかった。
「何度もチャイムを鳴らしましたが、Wさんも家族も誰も出てきませんでした。3時間ほど粘り、電話やLINEもしましたが反応はなく、これは逃げるつもりだなと思いました」
そこで一計を案じ、B子さんのスマホを車に乗せ、義理の父に自宅の方向へと走らせてもらった。位置情報で「帰った」と思わせるためである。
「すると、あたりを窺うようにWさんの父と思われる人が、ドアを開けてでてきたんです。すかさず私と母が駆け寄り、『あなたの息子さんの子供を妊娠し、婚約もしている者です』と話しかけました。その後、Wさんも出てきて、相手の両親と私の両親を交えて近くのファミレスで話し合いをすることになったんです」
Wは明らかに居留守を使っておきながら、話し合いの席では「今の妻と別れてB子さんと一緒になりたいです」「責任は取ります」と訴え、泣き始めたという。
義理の父は、これまでのWの不実な態度を責め、子供を認知し、満18歳に達するまで月額5万円の養育費を支払うこと、慰謝料として720万円を支払うこと、出産に要する医療費や諸費用などの実費を支払うこと、Wの配偶者から不貞行為等で法的請求がなされてもWの責任で対処すること、後日、同意書にサインすることなどを約束させた。
「同意書を交わす当日、Wさんは大幅に遅刻してきたものの、何とかサインさせることができました。同じ日に胎児認知届も提出させましたし、同意書には不履行の場合の違約金や強制執行などについても設定されています。これでひとまず逃げられる心配はなくなったと思ったのですが……」
しかし事態はそうならなかった。法的に拘束力のある同意書を交わしても、Wは逃げ続けたのである。それには新しい女性の存在があったと、B子さんは言う。
■新しい女性の存在、B子さんの精神科入院
B子さんが両親にすべてを報告する少し前から、Wには新しい女性の影があった。スマホの位置情報を見ると、彼は頻繁に栃木県内のある場所を訪れるようになっており、休日にはデートでしか行かないような場所によく移動していた。
「Wさんのインスタグラムのフォロワーを確認すると、プロフィールにO市在住と書かれた女性のアカウントがありました。私はピンと来てアカウントを作ってフォロー申請し、Wさんのこれまでの行為を知らせました。その女性も独身偽装の被害に遭っていると思ったからです。女性からフォロー許可はありませんでしたが、しばらくすると、その女性の妹さんから連絡があったのです。姉がWさんとつき合っていることを心配したそうです。妹さんとのやり取りで、私の両親に謝罪して同意書にサインする前からWさんは女性と関係を持っていたことを知りました。『なんて男だろう』と私は愕然とし、こんな男に人生を狂わせられたのが悔しくなりました」
Wが既婚者と発覚してからずっと追い詰められていたB子さんは、ずっと不眠が続き、希死念慮が出現するなど、精神的に不安定になっていた。すでに妊娠8カ月で、お腹は大きく、身動きもままならない。シングルマザーとして子供を育てることもほぼ確定し、Wは、同意書の約束をいろいろと理由をつけて果たそうとしない。将来の不安も重くのしかかる。様々なストレスが一気に押し寄せ、B子さんはとうとう自殺を試み、10月初頭に精神科病院の閉鎖病棟に入院することとなった。
「20日間で病院を退院しましたが、今でもフラッシュバックの症状や悪夢に苦しめられています。Wさんからは、養育費をめぐるやりとりのなかで、『お前が育てるより、俺が育てるほうが子供も幸せかもな』などと暴言を吐かれました。彼に、子供を育てられる環境なんてないのに。彼はその後、養育費の話からも逃げて、私の連絡を無視するようになりました。産後に公正証書にサインするという約束も果たさないまま。今ではどこに住んでいるかもわからなくなりました」
そんな状況のなか、B子さんは2025年12月に女の子を出産する。
「赤ちゃんをかわいいと思えるか、正直不安でした。けれど産んでみると杞憂だったことがわかりました。今の心配は、将来子供が大きくなったとき、父親のことをどう説明するかですね。あとはこれから友人たちが結婚したり出産したりしますから、そのたびに辛い思いをするんだろうなと……」
出産後、所在がわからないため、Wの会社に内容証明を送ったところ、「自分がしたことを考えろ」「俺とあなたの関係は不倫だから慰謝料なんて発生しない」「逆に嫁から慰謝料が請求される」などと脅すようなLINEが立て続けに届いた。
「Wさんが逃げる気だと知ってから、私は自分でいろいろと調べて、独身偽装の被害者の経験や、性的自己決定権侵害の問題を知りました。だから、 “不倫になる”“慰謝料は必要ない”という脅しには屈しません。その場しのぎの嘘にも騙されません。現在、弁護士を通じて同意書の約束を果たし、養育費の増額請求にも応じるようにとWさんと交渉中です。相手が応じなければ、裁判も考えています」
今後、B子さんには果たしたいことがあるという。
「Wさんの過去の女性たちも、同じような目に遭っていた可能性があります。私に対してしてきたように、彼は嘘を繰り返して逃げてきたのかもしれないと思うのです。ここで彼を痛い目に遭わせないと、また同じことをするでしょう。新しい被害者を出すのを食い止めたいし、過去の被害者にも声をあげてほしいと願っています」
■「婚約不履行よりも悪質性は大きい」弁護士が解説
B子さんは「結婚しよう」という加害者の言葉を信じ、「未婚の母」となった。こうした独身偽装によって女性が妊娠・出産したケースについて、札幌弁護士会所属の猪野亨弁護士はこう主張する。
「相手が事実を知れば同意しないとわかっていながら関係を持つのは、性的自己決定権の侵害です。婚約不履行でも同様の状況になることがありますが、独身偽装は客観的にも偽りの意思や事実が明らかですから、その悪質性はより大きく、加害者の責任は重い。民事上の賠償責任はもちろん、刑事罰を科すことも必要だと考えます」
独身偽装は不倫ではなく、一方的な加害行為なのだ。
(取材・文:ウラノけいすけ)