「年金と遺児の奨学援助金の支給手続きを止められて…」陸自レンジャー隊員が訓練中に死亡…妻が訴える自衛隊の“理不尽対応”

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「年金と遺児の奨学援助金の支給手続きを止められて…」陸自レンジャー隊員が訓練中に死亡…妻が訴える自衛隊の“理不尽対応”

今年1月、陸上自衛隊の降下訓練を体験した小泉進次郎防衛大臣。だが、実際の訓練はより危険かつ過酷だ(写真:時事通信)



【前編|全文公開】自衛隊“訓練中死亡事故”隊員の妻の思い「夫の死が無駄にならないために提訴を決意」から続く

「あの夜のことは、忘れたくても忘れることができません。そしていまでも、現実を受け入れられずにいます」

陸上自衛隊の訓練中の重大事故で、最愛の夫(41歳、当時2等陸曹)を亡くした妻は裁判の第1回弁論で3人の裁判官にこう訴えた。

事故は2025年3月13日、陸上自衛隊のレンジャー(特殊訓練を受けた精鋭)部隊の、午前、午後、夜間と連続する終日訓練の夜間に起きた。

レンジャー部隊は天候や気象に関わらず、昼夜にわたり悪条件を乗り越えて任務を達成することが求められ、その訓練は、陸自のなかでも心身の限界に挑む過酷なものとされている。2021年には熱中症で、2024年にも体調不良で死亡する事故が起きている。

事故はロープを使った降下訓練中に、高さ約15メートルの訓練塔最上部にいた隊員が携行していた重さ約7キロの機関銃を誤って負い紐から落とし、地上で安全係を担当していた2等陸曹を直撃したという重大かつ深刻なものだ。

2等陸曹は病院に搬送されたものの、心損傷による出血性ショックで同日21時25分に死亡が確認された。

当初、妻は裁判を起こすつもりはなかったというが、銃を落とした隊員の懲戒処分が停職1日、訓練の管理責任者が減給30分の1(1カ月)と聞き、あまりに軽すぎると感じた。


さらに陸自側の説明を聞くにつけ、あまりに訓練の安全管理がずさんで、責任感が感じられなかったことと、説明自体があいまいであること、補償金で早く(裁判にせずに)解決しようとする態度などに不信感が増し、今年3月、夫の両親とともに、国を相手に約1億3767万円の損害賠償請求を起こしたのだ。

ところが、妻や両親が自衛隊に弁護士への委任を伝えた途端、今度は金銭面での理不尽な対応が始まったという。

■遺児の奨学援助金の支払いも止められて

原告の代理人である佐藤博文弁護士(北海道合同法律事務所)が言う。

「自衛隊の公務災害補償の担当者は当初、自衛隊の損害賠償責任を認め、賠償金の支払い時期も2025年12月から今年2026年1月ごろになると話していました。しかし原告が、『損害賠償のことは弁護士に委任するつもり』と伝えると、担当者は、遺族補償年金などの支給手続きを進めるのを止めたんです」

佐藤弁護士によれば、遺族補償年金などの公務災害補償は、「遺族の生活を支えるもの」であり、できる限り「速やかに給付されるべきもの」という。

一般的には、損害賠償請求訴訟(裁判)になったとしても、遺族補償年金は先に支払われ、あとで、裁判で損害賠償額が確定する際に、支払われた遺族補償年金と重複する部分について、減額されることになるという。それが、直後に払われる特別支給金や葬祭補償費は支払われたものの、生活を支えるための年金支給手続きが止まり、現在まで支払われていないのだ。

さらに、損害賠償額の減額対象にならない、お子さんの奨学援助金まで、いまだに支払われていないという。


佐藤弁護士が「本来あるべき流れ」を説明する。

「損害賠償請求の裁判中であっても、公務災害の各種給付を受ける権利が優先です。後々、損害賠償が認められた際、先に受け取った公務災害給付と重なる部分について減額されるという『損益相殺』の流れが基本なんです」

働き盛りの一家の大黒柱である夫を突然、勤務中の重大な事故で亡くした妻と子は、遺族補償年金も受け取れず、さらには子どもの奨学援助金まで受け取れない状態を強いられているのだ。

■子どもも法廷で泣き出して……

これは防衛省や陸自の組織ぐるみの“パワハラ”といっても過言ではないのではないか?

「ご遺族の立場からすれば、そう言ってもよい状況でしょう。ただし法律に照らし合わせれば、事故後の二次被害防止の安全配慮義務違反、つまりご遺族を保護し、不利益を与えない配慮義務への違反と捉えるのが的確です」(佐藤弁護士)

去る6月24日に開かれた第1回口頭弁論では、妻が証言台に立ち「意見陳述」を涙ながらに読み上げた。さらに、傍聴席に座っていた子どもは、その母が意見陳述しているときに、こらえきれずに泣き出してしまっている。

「この先、二度と同じような事故で、悲しい思いをする人たちが出ない未来のために、夫の死が無駄にならないために――」

損害賠償請求と同時に「事故原因の追究と、誠意ある対応、謝罪」を妻が求める理由は、そこにあるという。

妻は夫について陳述書にこう記している。


「夫は真面目で優しくてひょうきんで誰からも好かれる人でした。夫が亡くなってから、夫の同僚や友人とお話しさせて頂く機会が多くありましたが、楽しく面白い話ばかりで、本当にみんなから愛されていたんだなと感じました。

子どもが産まれてからは、とにかく家庭を第一に考え、仕事から帰ってきたら子どもと散歩へ行ったり遊んだり、近くのグラウンドで野球練習をしたりしていました。家では子どもたちと一緒にふざけ合って、笑って、それが当たり前の日常でした。そんな父親が子どもたちも大好きでした。美味しいものを食べたり、旅行へいったり、笑ったり、泣いたり、怒ったり、もっともっと一緒に過ごしたかったです」

6月16日、防衛省は令和7年度の自衛官等の採用人数が1万1177人となったことを公表した。前年度より1453人増加し、3年ぶりに1万人を超えたという。

同日の会見で、小泉進次郎防衛大臣は「防衛省が取り組んできた自衛官の処遇改善、新たな生涯設計の確立などに関する施策が一定の効果をあげた」と成果を誇った。
しかし、その裏で、「自衛隊の訓練が強度を増し、隊員の心身に対する危険度・負担度が増している」(佐藤弁護士)のに、安全性確保がなおざりなうえに、亡くなった自衛官の遺族に対する理不尽な対応が行われている。

次回の弁論は9月15日に行われる。

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