「デブスパッツとあだ名を」帰国子女だった私にかけられたルッキズムの呪い…体重が40kgを切ったことも
「この本がルッキズムについて考えるきっかけになれば」と前川さん(撮影:日下部真紀)
外見が重視されるルッキズム(外見至上主義)。「見た目も実力のうち」「かわいいだけじゃだめですか?」「顔面国宝」――。そんな言葉が飛び交ういま、SNSや美容医療の普及を背景に見た目へのプレッシャーはかつてなく強まっている。
こうした中、ルッキズムとの向き合い方を考える書籍『つまり、それがルッキズム ~23の事例と解説~』(講談社)が話題になっている。著書のひとり前川裕奈さん(37)は、次のように話す。
「私自身も摂食障害だった時期がありますが、ルッキズムに支配されて摂食障害に陥っている人は想像以上に多い。容姿の悩みを抱え、多くの人がもがいている背景は、この社会がそうした価値観を作り出しているから、ともいえます」
前川さんがルッキズムに関心を持ったきっかけとなる原体験は10歳。ヨーロッパで育った前川さんは、小学5年生のときに日本の公立小学校に転校した。
「初日にトップスが短めのセーターに下は黒いスパッツ(今でいうレギンス)という服装で登校したら、同じクラスの男子に『デブすぎてスパッツだけなのか?』と笑われ、『デブスパッツ』という衝撃的なあだ名をつけられたんです。
ヨーロッパでは当たり前の格好だったんですが、日本は今でもレギンスにショートパンツなどを一緒にはくのが一般的です。自分が太っているという認識はなかったのですが、このあだ名が、“呪いの発端”となり、周囲の目を極端に意識するようになりました」(前川さん、以下同)
帰国子女ならではのカタカナ表記の発音の違いや日本語の言い回しの間違いなど、ちょっとしたことで「これだからデブスパッツは」とイジられたという。
「ただ、数年前に当時の写真を見たら、特別太ってはなかったんですよね。記憶の中でも太った子として生きてきたのですが、健康的な体型だったんです。きっと、当時のクラスはやせ型が多く、クラスの標準より私が太って見えただけだったのかもしれません。たまたま見た目を突かれたことで、自分自身に呪いをかけてしまったんです。私は太ってるし、人と同じことができないダメな人間だと……」
中高一貫の女子校に進学してからは、容姿イジりはなくなったものの、「デブスパッツ」の呪いは残り、ミニスカートやスキニージーンズははけなかった。
■海外で「美の定義はひとつではない」と気づいた
大人になっても、外見で評価されることは変わらない。第一印象が重視される社会では、恋愛、就職、接客などで外見が評価される場面も少なくない。「若い」「痩せている」「肌がきれい」「貫禄がある」――といった何気ない外見の指摘は、数えきれないほど飛び交っている。
前川さんも、ダイエットで体重が落ちて細くなったことで、周囲の評価が「痩せてキレイになったね」に変わり、「痩せるだけでこんなに褒められる」とさらにダイエットを続け、身長162cmで体重は40kgを切った時期も。
「それでも、気を抜くとデブスパッツに戻ってしまうと思い込んでいました」
大学卒業後、不動産会社や国際協力機構(JICA)、外務省と華々しい職場で活躍するものの、痩せることにこだわり、忙しくて運動ができないときは食事を減らし、1日飴玉3粒しか口にしない日もあったという。食べすぎたと思った日には、無理やり吐くことが週に何度もあった。
「自分の生きづらさの正体がルッキズムだと認識し始めたのが、拒食と過食を繰り返していた頃です。海外の友人から、『常に自分のコンプレックスを感じていて、痩せているのに食事をすることも恐れていてセクシーじゃない』と指摘されたこと。
“内なる自信”が欠けていること、“自分のため”に生きていないからだと、ようやく俯瞰することができたんです」
ルッキズムに気づけたきっかけは、新しい環境に飛び込んだことも大きいと話す。
「仕事でアメリカやスリランカに長期滞在し、美の定義はひとつではないという大事な気づきがありました。見た目やお尻の大きさ、肌や髪の色など、各国にそれぞれのルッキズムや社会課題はありますが、異なる価値観に触れながら、少しずつ自分を紐解いていくプロセスを経て、私自身の問題ではなくルッキズムによって植え付けられた価値観だったと気づいたとき、自分にかけていた呪いが解けたんです」
■SNS社会はルッキズムの影響を受けやすい社会
近年、加工アプリや動画投稿などのSNSが身近になったことで、ルッキズムの形もより複雑になってきたと、前川さんは指摘する。
「ネット上に顔や体型を公開することが一般的になり、多くの人の目に触れ、他者と比較される機会が増えたことで、ルッキズムの影響を受けやすくなっています。また、人気の加工アプリは、理想的な容姿を簡単に作り出せるため、本来の自分とのギャップに悩むなど、容姿へのプレッシャーを強める要因の一つになっています。一方で、ダイエットや整形、メイクなどで実際に自分を変えなくても、気軽に理想の姿を表現できるため、極端な自己改造に走らずにすむというメリットもあります」
20年以上、容姿について悩み、周りの目を過度に意識してきた前川さん。ルッキズム払拭の発信をするようになってからも、その影響の根深さを感じ続けている。
こうした思いを共有するライターのウィルソン麻菜さんと意気投合したことで、ルッキズムについての書籍を出版することになった。
真っ先に行ったのは、本を読んでほしい若者への聞き取り調査だった。
「現役の女子高校生に取材を重ねると、かつての自分のように、自分自身に呪いをかけている人がいかに多いかがわかります。摂食障害や学校に行けなくなった人も。また、親の立場から、『子供たちには自分の容姿で悩んでほしくない』と葛藤する人もいました。社会の仕組みとして繰り返し外見が評価されることで、自分自身に呪いをかけ苦しんでいるんです」
書籍が出版されると、問い合わせが相次いだ。新聞各社および各ウェブメディア、ラジオ番組、YouTubeチャンネルなど20媒体以上から取材申し込みが殺到したという。
「この本が、ルッキズムについて考えるきっかけになってくれたら」
【後編】学生1000人以上を調査“令和のルッキズム”解説書の著者語る「子供が整形したいと言い出したら」へ続く
【PROFILE】
前川裕奈<まえかわゆうな>
1989年生まれ。慶應義塾大学法学部、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科を卒業。
三井不動産、JICA、在スリランカ日本大使館での勤務を経て、2019年に「kelluna.」をスリランカで起業。現在は、現地と行き来しながらkelluna.を運営し、講演活動も行っている。好きなことは、ランニング、マンガ、推し声優のイベント参加。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。
ウィルソン麻菜<まな>
1990年生まれ。ライター。属性や肩書などの枠を超えた人々の物語を伝えることで、平和な世界を目指す。インタビューや対談記事の企画・執筆、サイトテキストなどのライティングを行う傍ら、言葉の伴走サービス「ことバディ」、個人向けインタビューサービス「このひより」を運営。
人々が自分らしく、ともに生きるために「言葉にすること」の可能性に向き合い続けている。アメリカ人の夫とともに二児の英語の子育てに日々奮闘中。