学生1000人以上を調査 “令和のルッキズム”解説書の著者語る「子供が整形したいと言い出したら」
書籍の著者であるウィルソンさん(左)と前川さん(右・撮影:日下部真紀)
【前編】「デブスパッツとあだ名を」帰国子女だった私にかけられたルッキズムの呪い…体重が40kgを切ったこともから続く
「夏休みやお盆で家族や親族が集まると、『痩せた?』『お父さんそっくりだね』『背が伸びたね』など、形容詞を使った、見た目の話題や会話が多くなります。
たとえばテレビを見ても、俳優のことを『細くてかわいくなった』とか『若い頃は目がキリッとしてかっこよかったのに』など、外見を具体的に褒めたり、評価したりする。こうした形容詞を使った何気ない会話が、ルッキズムを強めているんです」
そう話すのは、経営者・コラムニストの前川裕奈さん(37)。ウィルソン麻菜さんとの共著『つまり、それがルッキズム ~23の事例と解説~』(講談社)を7月、出版したばかりだ。ルッキズムとは、日本語で外見至上主義とも訳され、外見や容姿で人を評価し、優劣をつけたり、不当な扱いをしたりする考え方のこと。
書籍は多くの反響を呼んでいる。新聞各社および各ウェブメディア、ラジオ番組、YouTubeチャンネルなど20媒体以上から取材申し込みが殺到している。
前川さんは小学生時代に「デブスパッツ」とあだ名をつけられ、過度なダイエットや摂食障害を経験し、ルッキズムにとらわれていた実体験から、ルッキズム払拭の発信を続けている。
「自分の容姿が好きになれないのは、この社会がそう作られているから。それに気づけば見える世界が変わる」と、学生1000人以上をヒアリングし、日常で起こりがちな「ルッキズム事案」を漫画で再現しながら、その対処方法を考える書籍を出版した。
「ただ、ルッキズムに明確な答えはありません。『ちょっと太った?』の一言でも、気にしない人もいれば、深く傷つく人がいるように、同じ言葉でも受け止め方や悩みの深さは人それぞれ。だから『こう言えば大丈夫』というマニュアルはないんです。思春期の一時的な悩みで終わることもあれば、摂食障害など深刻な問題につながるケースもありますから」(前川さん)
だからこそ、より相手にかける言葉を意識する必要があるのだ。
■「整形したい」の裏に、固定観念が隠れていることも
では、女子高校生へのヒアリングでは、外見をめぐってどのような悩みが語られたのだろうか。
「『マスクを外すのがつらい』と話した高校1年生がいました。
中学3年間はコロナ禍で、マスクで過ごしていたからです。素顔を見られること自体に大きなハードルを感じていました。こうした時代背景も、ルッキズムへの意識をより強めているのかもしれません」(前川さん)
共著者で2児の母でもあるウィルソン麻菜さん(36)は、若い世代に人気の「加工アプリ」の影響も指摘する。
「友人と撮った写真を『(勝手に)目を大きく加工されていた』と話す高校生がいました。友人は良かれと思って加工したのかもしれませんが、本人は複雑な気持ちになったそう。加工するか、SNSに投稿するかなど、今は相手との対話や同意が必要になっており、そうした認識のずれもルッキズムにつながっているのでは」
身近になった整形や美容医療も、外見への意識を高めるきっかけになりがちだ。もし、自分の子供が整形したいと言い出したら、どうすればよいのだろうか。
「本人が悩んだ末に『自分にとって必要』と考えた場合、頭ごなしに否定する必要はないのでは。
一方で、『友達がしたから』『誰かに言われたから』という理由なら、どうしてそう思うのか対話が必要でしょう」(前川さん、以下同)
会話の先には、広告の影響や、「仲間外れにされたくない」という友人関係の悩み、「胸が小さいと女性らしくない」などの性別への固定観念が隠されていることも多いという。
「日本ではとくに『若く見えること』が誉め言葉として使われます。『バブみ顔』『赤ちゃん顔』など、幼くてかわいい雰囲気を求める流行にも表れているように、“若さ”が褒め言葉や武器として扱われています。ですから、若さを求める気持ちは、ただの社会の価値観の押しつけかもしれません」
■「ルッキズムを拒否することは、おしゃれを否定することではない」
とはいえ、年齢を重ねた肌のシミやしわ、歯の黄ばみは気になるもの……。
「一見、矛盾しているようですが、自分が気になる部分に向き合い、誰かに言われたからではなく、『自分がどうありたいか』を基準に美容医療を選ぶことは、ルッキズムとは異なります。納得して選ぶのなら、アンチエイジングの選択肢を活用するのも方法だと思うんです。
誤解されがちですが、ルッキズムを拒否することは、おしゃれを楽しむことやアンチエイジングや整形を否定するものではないんです」
たとえ誉め言葉のつもりでも、容姿への発言は、子や孫にも要注意だ。
子どもは大人に認められたい気持ちが強く、特に身近な家族の言葉から大きな影響を受ける。
『かわいいだんご鼻だね』『小動物みたい』『化粧したらもっとかわいいのに』といった何気ない言葉も、無意識のうちに心に残るもの。小さい頃に言われた大人の言葉は、思っている以上に強い影響を持つ。
「だからこそ、『笑顔がいいね』『雰囲気が変わったね』と言葉を抽象化することで、その人の印象や様子に目を向けた表現にすることです。少し言葉を選ぶだけでも、相手が感じるプレッシャーを減らせると思うんです。
そして、言葉を考える、相手のことをよく知る、人に対して想像力を働かせる、間違ったと思えば謝罪して次に生かす……そういうことを繰り返してルッキズムを咀嚼していくことが大事なんだと思うんです」
いま、「ビジュいいじゃん」「かわいいだけじゃダメですか?」「顔採用」など、見た目を重視する言葉が広がる一方で、ルッキズムへの理解も少しずつ広がっている。
「ルッキズムという考えを知ることで、少しずつ共感が広がっています。以前は『世の中、ビジュだから』と話していた友人が、対話や社会の変化の中で『かわいいだけじゃだめ。ビジュ以外の引き出しを増やさないと』と発言が変わったんです。
外見至上主義だった人も、ひっくり返される人が増えているのだと感じています」
【PROFILE】
前川裕奈<まえかわゆうな>
1989年生まれ。慶應義塾大学法学部、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科を卒業。三井不動産、JICA、在スリランカ日本大使館での勤務を経て、2019年に「kelluna.」をスリランカで起業。現在は、現地と行き来しながらkelluna.を運営し、講演活動も行っている。好きなことは、ランニング、マンガ、推し声優のイベント参加。著書に『そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。
ウィルソン麻菜<まな>
1990年生まれ。ライター。
属性や肩書などの枠を超えた人々の物語を伝えることで、平和な世界を目指す。インタビューや対談記事の企画・執筆、サイトテキストなどのライティングを行う傍ら、言葉の伴走サービス「ことバディ」、個人向けインタビューサービス「このひより」を運営。人々が自分らしく、ともに生きるために「言葉にすること」の可能性に向き合い続けている。アメリカ人の夫とともに二児の英語の子育てに日々奮闘中。