《過去には“違法監視”で国敗訴も》自衛隊「現地情報隊」が市民の思想や性的指向を情報収集か…小泉防衛相は「事実確認してない」
小泉大臣は「事実は確認できていない」と主張している(写真:本誌写真部)
「陸上自衛隊中央情報隊の対外情報部門の隊員が、自らの身分を偽って情報収集を行ったとの事実は確認されておりません。報道の前提とされている文書については、防衛省・自衛隊が公表したものではなく、その出所や真正性を確認できていないため、当該文書の内容を前提としたお答えは差し控えます」
小泉進次郎防衛大臣(45)は、7月28日の閣議後の記者会見で、一部報道の「自衛隊の現地情報隊が身分を隠して対象者に接触するなどしていた」という指摘に対して「事実を確認しておりません」とした。これは「熊本日日新聞」が、陸上自衛隊の中央情報隊(朝霞駐屯地)の対外情報部門「現地情報隊」が、大学教授やNPO法人代表など一般市民を対象に、性的指向や異性関係、愛国心を含む思想信条などの情報を収集していたと報じたことに端を発している。
同紙は「活動内容は、防衛相をはじめとする政治家や官僚らにも知らされていない」と報じており、小泉大臣は会見で冒頭のように釈明したのだ。では、この「現地情報隊」とは、いかなる組織なのか。元航空自衛隊自衛官で、軍事ジャーナリストの小西誠氏が言う。
「現地情報隊とは、自衛隊中央情報隊(朝霞駐屯地)の指揮下にある情報部隊のことで、正確な人数はわかりませんが、100~200人程度ではないかと思われます。指揮官は一佐クラスで、構成員は曹士から幹部まで、幅広い階級に及んでいると考えられます」
この組織は元々、イラクや南スーダンなど海外への自衛隊派遣に際し、現地の治安状況や部族関係などを事前調査する目的で組織され、2007年に創設されたものだという。
「本来、PKOを含む海外活動のための情報収集が目的でしたが、その過程で、海外事情に詳しい大学教授やジャーナリスト、研究者、NGO関係者などの調査や接触が行われるようになったと指摘されています。たとえば、中国やイスラム圏に関する専門知識を持ち、現地とつながりのある人物は、情報収集の観点から非常に有力な協力者になり得ます。現地への行き来が頻繁であれば、地域の情報を把握しやすいからです」(小西氏、以下同)
こうした人は現地事情や人的ネットワークに通じているため、情報機関から見れば情報収集の対象や協力者候補として関心を持たれやすい存在のようだ。「日本には多くのムスリムや中東出身者が居住していますし、研究者や留学生、事業関係者などを通じて現地情報を得るという発想は、情報機関であれば当然出てくるでしょう。ですから、日本人も外国人も含めて、海外と深い接点を持つ人々が対象となる可能性があるわけです」
「熊本日日新聞」は、現地情報隊が調査対象者の女性関係や借入金などの情報まで、収集していたと報じている。これは、どのように収集するのだろうか。
「まず対象者について詳細なデータを集め、そのうえで接触の可能性を探ります。現地情報隊の情報収集担当者は、必ずしも基地の中にいるわけではありません。
民間企業や商社を装った活動拠点を持ち、一般社会の中で行動するケースもあるとされています。女性関係や金銭関係を調べるのは、その人物の弱みや行動傾向を把握するためです。場合によっては直接接触し、協力を求めることもあるでしょう。最終的には人間関係を構築するところまで含まれます」
ときには「調査者の男性に、女性隊員が身分を隠して接近するようなケース」もあり得るという。
「諜報活動の一般論として珍しい話ではありません。実際に協力者を得るためには何らかの接触が必要ですから、さまざまな手法が使われます。重要なのは、膨大な対象者情報の中から、その地域やテーマに適した協力者候補を選別していくことです。偶然を装って接触したり、仕事を通じて関係を築いたりといった手法は、世界中の諜報機関で行われている一般的な手法です」
■過去の“違法監視”より悪質性が高いと専門家
現地情報隊が発足する以前から、陸上自衛隊は個人情報の収集を行ってきたと、小西氏は話す。
「代表的なものが、『旧調査隊』です。本来は自衛隊内部の隊員に対する身辺調査や保全活動を目的としていました。私の知る限りでは共産党員やその家族、あるいは特定の政治活動との関係なども調査対象とされてきたようです。ただ、その活動範囲が徐々に拡大し、反戦運動や市民団体、ジャーナリストなどにまで対象が広がったことが問題視されてきました。2007年に始まった情報保全隊訴訟は、その象徴的な事例だったと思います」
この「自衛隊の国民監視差止・国家賠償請求訴訟(=自衛隊情報保全隊訴訟)」とは、陸上自衛隊の情報保全隊が、イラク派兵に反対する市民や団体を広範に監視し、個人情報を含む内部文書を作成していたことの違憲性・違法性を問う裁判だった。高等裁判所が国家機関による国民監視活動を「違法」と断罪した歴史的な判決としても知られている。原告弁護団の事務局長を務めた小野寺義象弁護士(一番町法律事務所・仙台)が振り返る。
「2003年から2004年にかけて、自衛隊のイラク派遣をめぐり、全国で市民による反対運動が広がり、イラク派兵違憲訴訟が仙台・札幌・名古屋など全国各地で闘われていました。
そのさなか、陸上自衛隊情報保全隊が市民の活動を監視していたという内部文書が公表されたのです」
2007年6月に存在が発覚した内部文書は全166ページだが、東北情報保全隊が作成した文書と、情報保全隊の本部が全国の情報を集約した文書の2種類があった。
「東北6県でイラク派遣反対の集会に参加した市民が、2007年10月に、仙台地裁に提訴し(最初は4人、最終的には107人)、個人名も含む詳細な内部文書を情報保全隊が作成・保管していたことは、市民監視であり、思想信条の自由、プライバシー権、表現の自由、そして平和的生存権も侵害する重大な違憲・違法な行為だと裁判所に訴えたのです」
仙台地裁は、2012年、内部文書は自衛隊が作成した文書であると認定し、文書に実名が記載されていた5人に対して違法な人格権侵害があったと認定して慰謝料の支払いを命じた。仙台高裁は、2016年2月、1人の原告に対して違法なプライバシー権侵害があったと認定、慰謝料の請求を命じた。国は上告を断念したため、市民の勝訴が確定した。小野寺弁護士は、当時の判決を踏まえて、今回の現地情報隊の報道について以下のように話している。
「私が代理人を務めた裁判で違法とされたのは、市民の本名や勤務先などの情報が収集された部分です。しかし今回の現地情報隊の報道内容では、調査対象者の性的指向や、愛国心といった、より深いプライバシーに踏み込んで調査したとされています。違法性の程度は、当時の裁判の事案と比較しても格段に高い。
自衛隊は違法行為を全く反省していないと言わざるを得ません」
8月5日、「熊本日日新聞」は実際に調査対象となったNPO法人代表の男性の証言を報じた。次第に明らかになる現地情報隊の実態と、調査手法の問題。小泉大臣はどこまで正確に把握し、国民にどう答えるのだろうか。