「ドアが開かなかったら命はなかった…」千葉豪雨で相次いだ“車水没”の恐怖…道路冠水時に“絶対にしてはいけないコト”
通常なら8月の1カ月間に降る量 を上回る雨が、短時間で一気に降った(写真:時事通信)
「大雨のなか、蘇我駅近くを車で移動中、前方に大きな水たまりがあると思ったその瞬間、ドボンとはまって動けなくなりました。車内にどんどん水が入ってきて、恐怖を覚えました」(60代男性)
8月13日から14日未明にかけて千葉県を襲った「令和8年8月千葉豪雨」。千葉県の22の市町で、災害の危険度がもっとも高い「レベル5大雨特別警報」が出された。
千葉市の蘇我駅近くに実家があるという冒頭の男性は、13日夕方、墓参りを終えて実家に帰る途中、車ごと水にのみ込まれた。九死に一生を得た男性がこう続ける。
「水は一気に胸のあたりまで迫り、エンジンはかかりません。ドアのロックを解除すると、なんとか後部のスライドドアが開き、車から脱出することができました。あのままドアが開かなかったら……。
命がなかったかもしれません」
多くの帰宅困難者が夜を明かしたJR千葉駅にも豪雨の傷痕が。
「13日夕方に千葉駅に来た時点で、大雨の影響で身動きがとれなくなりました。駅を離れるのが怖くなり、そのまま構内で寝転がって夜を明かしました」(30代男性)
千葉駅前のアンダーパス(鉄道の下を通る道路)は、水深が最大で3メートルに達し、ワゴン車が浮いてしまうほど。バスの誘導員も「向こうの道路は川になっていた。こんなのは初めて」と語っていた。
「店の中に水が押し寄せてきたと思ったら、すぐにひざまで浸水。店内のものをテーブルの上に避難させるしかありませんでした。早く店を再開させられたらいいけど」(駅前の飲食店の店主)
千葉駅直結の商業施設「ペリエ千葉」などは、浸水の被害で14日は臨時休業を余儀なくされた。
千葉駅周辺の幹線道路には、動けなくなった車両が200台近く放置された状態に。都市型水害の恐ろしさをまざまざと見せつけた。
備え・防災アドバイザーの髙荷智也さんがこう語る。
「今回の豪雨では、千葉市中央区で24時間降水量が367ミリに達しました。これは’76年の統計開始以来最大で、千葉市の8月1カ月分の平年降水量の約3倍。バスタブを満タンにした量の水が頭の上から落ちてきたようなものです。これほどの雨になると、河川が近くになくても安全ではありません。
地面が舗装された市街地では、大量の雨水を下水道や側溝の排水能力では処理しきれず、マンホールなどから水があふれる“内水氾濫”が起こります」
今回の豪雨では、浸水や冠水報告の半数以上が従来の浸水想定区域外から寄せられており、想定外の場所で被害が広がった。
「全国の洪水や内水氾濫で、どのエリアがどれくらい水に浸かるかを示す『水害ハザードマップ』がありますが、これはすべての危険を網羅した地図ではありません。
とくに1時間100ミリを超えるような猛烈な雨では、低い道路、アンダーパス、地下街、地下駐車場、半地下の住宅では一気に水が集まり、想定外の被害が出ることもあるのです」(髙荷さん、以下同)
今回の千葉豪雨では、アンダーパスで車に閉じ込められたり、逃げ遅れた人が命を落とすケースも。
「アンダーパスは周囲より道路が低く、雨水が急激に集まりやすくなっています。冠水した道路は見た目だけでは深さがわからず、水たまりに見えても進入した瞬間に車が浮き、エンジンやモーターが停止することがあります。床面を超える浸水で車両に不具合が起き、ドア下端が水に浸かると、水圧でドアが開きにくくなります。
こうした点で、大雨の中を車で移動する際は危険が伴います。道路が冠水していたら、アンダーパスなど低い場所には絶対に入らないこと。もし車内に水が入り始めたらエンジンを止め、窓が開くうちに脱出する。
ドアが開かない場合に備え、脱出用ハンマーを運転席から手の届く位置に置いておくことも大切です」
歩いて移動すれば安全というわけでもない。八千代市や千葉市若葉区では、路上で倒れている人が見つかり、死亡が確認されている。
「冠水した道路では、濁った水で足元が見えません。側溝のふたが外れていたり、マンホールのふたがずれていたり、釘やガラス、泥、油、下水がまじっていたりします。
とくに夜間は、停電すれば街灯も消え、冠水した道の穴や段差は見えません。どうしても歩かなければならない場合でも、できるだけ肌を露出せず、長ズボンなどを着用し、サンダルではなく紐でしっかり固定できる運動靴やスニーカーで。長い棒で足元を確認しながら進む方法がありますが、棒を使わなければ進めない時点で、避難としてはかなり遅い。水が来る前に逃げることが最重要です」
■「大雨予報」が出たら防災の意識をもつ
大雨や台風の季節は続く。
どう備えればよいのか──。
「まず自宅、職場、学校の周辺に潜む危険を、自治体のハザードマップや、複数の災害リスクを1つの地図で確認できる『重ねるハザードマップ』で確認することです。浸水する深さ、土砂災害警戒区域、周囲に比べて低くなっている道路、アンダーパスの位置などを家族で共有しておくことも重要。
また、避難所へ行くことだけではなく、安全な上階にとどまる垂直避難のほか、親戚宅やホテルへの早めの移動も選択肢になります。大雨のときに“逃げるか、逃げないか”を命がけで悩むことがないよう、ふだんから豪雨のときにどう行動すべきかを想定しておくことです」
今回のような広範囲に及ぶ記録的な大雨は、突然発生する地震とは異なり、前日までの天気予報などである程度の情報が得られる。
「“明日は大雨になりそうです”と予報が出た時点から防災は始まっています。対策は雨が降り始める前に終わらせること。
自治体から発令される避難情報のハザードマップで『水害リスクの高い地域』に住んでいる場合や、『警戒レベル4の避難指示』が出された際は、すぐに避難行動を始めましょう。
自宅にとどまる場合でも、停電、断水、トイレの故障などに備えておくことが大切です」
次の豪雨はどこを襲うかわからない。ふだんから危険な場所を知り、早めに動く準備をしておくことが、自分と大切な人の命を守ることにつながるのだ――。