「原爆投下は嘘だった」歴史研究家の主張を公開した動画への批判再燃…配信元の溝口勇児氏率いる「NoBorder」が答えた“見解”
NHKニュースのXアカウントより
81回目の「終戦の日」を迎え、8月15日に行われた全国戦没者追悼式では不戦の誓いが新たにされた。いっぽう、第二次世界大戦の終戦から81年が経ち、戦争の記憶が薄れていくことも懸念されているなか、“ある主張”が波紋を呼んでいる。
《いま、原爆に関する偽情報がSNSで広がっています》
8月8日、Xでこう切り出したのはNHKニュースの公式アカウント。同日配信の「『原爆はデマ』荒唐無稽なフェイク拡散 実相と異なるAI動画も」と題する記事を添え、《被爆者がいなくなる時代を前に、事実をどう伝えていくのか》と問題提起した。
「NHKの記事によれば、XやTikTokで『原爆はデマ』『放射線による被害はなかった』と主張する真偽不明の投稿が拡散しているといいます。また、YouTubeでも『原爆投下はうそだった』と主張する動画が30万回以上再生されているとして、《もちろん、これらはすべて偽情報です》と注意喚起しています。
さらに偽情報に憤る被爆者や専門家の声を紹介し、原爆を再現した生成AI動画の氾濫についても指摘。戦後81年を迎え、被爆者が減少するなかで“被爆の実相”を継承するため、“1次情報や正しい情報にたどり着きやすい仕組み作りが必要”とする専門家の見解を紹介していました」(WEBメディア記者)
NHKの記事では生成AI動画を制作した人物が匿名で取材に応じていたが、偽情報を流していたというXやTikTok、YouTubeのアカウント名などは伏せられていた。
そのため、それらの投稿や動画を特定する動きも広がることに。とりわけ注目を集めているのは、「原爆投下はうそだった」と主張していたとされるYouTube動画だ。
この動画についてXでは、一部ユーザー間から指摘されていたチャンネルが――。それは実業家・溝口勇児氏(41)が代表を務める「株式会社NoBorder」が運営するYouTubeチャンネル『NoBorder X File』だ。
というのも、今年4月3日に同チャンネルでは、「原爆投下は嘘だった…覆される世界の常識と封印された戦後史に残る最大の嘘」と題する動画が配信されていた。
本動画では近現代史研究家・林千勝氏(65)がゲスト出演し、オブザーバーのタレント・フィフィ(50)と実業家・西川将史氏(43)に“原子爆弾はフェイク”だとする持論を展開。8月17日現在までに35万回以上の再生回数を記録しており、NHKが指摘した動画の特徴と重なる点もあった。
本動画での林氏の発言をいくつか挙げると、例えば、1945年8月6日にトルーマン米大統領(当時)が広島原爆投下を発表した声明について、「全くでたらめ」と指摘。
声明に記されていた「米国の一航空機」「広島に1発の爆弾」「TNT火薬で2万トン以上の破壊力」の文言をピックアップし、これらを「うそ」と一刀両断していた。
その上で、「一航空機で広島全体を破壊したとなると、ものすごい衝撃ですよね、人類史上ね。大変な化学の成果ですよね」と述べ、声明について「そういった物語のプロパガンダなんですよ」と話していた。
また、番組では林氏の主張について、ナレーションで「原爆の脅威、それは俺たち日本人が一番よく分かっている。だが、もしもその脅威が印象操作だったら。核爆弾の脅威を世界に見せつけ、覇権を握る。そのために核爆弾を偽装し、大統領を使って声明を出し、日本が利用されているかもしれない。そう、林は主張する」と紹介されていた。
このほか、西川氏から「落とされたのが原子力爆弾でないっていう証拠はあるんですか?」と尋ねられると、林氏は「昭和20年5月の末に、日本の原爆投下について議論する最高戦争指導会議が開かれ、その議事録にプルトニウム原爆の完成は1949年1月以降とオッペンハイマーの仲間が正式報告している」と説明。
さらに番組では、「落とされた爆弾」「記録されたきのこ雲」「爆心地の状況」「被爆者の人影」の4項目に分けた検証も。林氏は投下された爆弾について「大型の複合爆弾だったと考えられている」と語り、主な爆弾の種類について閃光弾、サーモバリック爆弾、ナパーム弾、毒ガス弾などを挙げていた。
また、“原爆が落とされる瞬間の映像はない”とし、現存する弾倉が開く瞬間の映像についても「東京大空襲の焼夷弾の弾倉が開く映像を借用している」と主張。その上で、「我々が数十年間見せられていた、米軍が撮影したといわれる公式のナショナルアーカイブにある広島原爆にまつわる映像は、100%フェイク」と言い切っていた。
■「一線を越えている」相次ぐ批判に動画の配信元が示した見解
自らの調査や研究をもとに、“広島に投下されたのは原子爆弾ではなかった”と主張した林氏。だが、動画のコメント欄では、《死者への冒涜。被爆者への冒涜》《これはさすがに被爆者をバカにしていてひどい内容です》と批判の声が相次ぐことに(以下、カッコ内はすべて原文ママ)。
さらに林氏の主張だけでなく、動画を配信した「NoBorder」の責任を問う次のような声も。
《エンタメだからとか、判断は視聴者だとか、寝ぼけた事言うてんちゃうぞ!やってええ事とあかん事の区別もつかんのか?》
《この番組は、日本中の国民を、敵にする積りですか?この動画の配信は、許しませんよ》
《よく企画が通ったと思うし、関係者の誰一人として強くstopをかけなかったのが理解不能。編集している最中「この動画一線越えてる」って気づくはず》
また、動画序盤のテロップでは《1945年8月6日広島10日長崎》と表示されていたことから、《長崎は9日です》《長崎は9日じゃないか!おかしいだろう!》と長崎原爆投下の日付が誤っていることを指摘する声もあった。
いっぽう林氏は8日にXで、NHKが報じた原爆の偽情報に関する記事を取り上げ、《ついにNHKが真実の広がりを恐れ、取り上げました! 言論統制ぶりは、お注射の場合と同じ!!》と皮肉交じりに反論していた。
波紋が広がる動画だが、配信元である「NoBorder」は世間からの厳しい批判をどう受け止めているだろうか?そこで本誌が10日に同社を取材すると、15日夜に担当者から文書で回答が寄せられた(以下、カッコ内は全て担当者)。
まず、当該動画の内容が“偽情報ではないか”と指摘する声に対しては、「当該動画で話されている内容は出演者の見解であり、弊社が報道として事実認定したものではありません」とのこと。
林氏の“原子爆弾はフェイク”という主張に対しても、「当該動画における主張は出演者の見解であり、弊社の見解ではありません」との回答があった。
いっぽう、当該動画の修正や削除などの予定について尋ねると、「言論の自由の観点から、『NoBorder X File』の当該動画を削除する予定はございません」との説明があった。
なお、担当者によれば、同社が運営を手掛ける3つのYouTubeチャンネル『NoBorder News』、『NoBorder』、『NoBorder X File』は、それぞれ位置付けが異なるという。
まず、『NoBorder News』は、「世界的な報道規範『ジャーナリズム5原則』に基づいて運営する報道番組です」とのこと。次に『NoBorder』は、「討論番組です。異なる立場の出演者がそれぞれの見解を述べる番組であり、発言は各出演者の見解です」と説明。そして今回注目を集めた『NoBorder X File』については、「世に流通している言説や過去の未解決事件などを取り上げる番組であり、報道番組ではありません。発言は各出演者の見解です」とのことだった。
その上で、「弊社は、性質の異なるこれらの番組を併せて運営することで、多様な言論空間を提供することを目的としております。また今後、報道番組『NoBorder News』において、『NoBorder X File』で扱われた内容を事実ベースで検証する可能性があります」との説明があった。