夢洲で進む“カジノ計画” 反対市民団体が懸念「地盤沈下、さらなる公費負担の懸念は消えない」
排水材を抜くためのクレーンが立ち並ぶ(写真:本誌写真部)
2030年秋ごろの開業を目指し、大阪・夢洲(ゆめしま)で建設が進む大阪IR(カジノを含む統合型リゾート)――。
「あかんカジノ女性アピール」で活動し、「おおさか市民ネットワーク」の代表を務める藤永延代さんは、長年、行政への情報公開請求や現地調査を重ね、大阪・関西万博やIRをめぐる問題を追及してきた。
本誌記者は7月上旬、藤永さんとともに大阪IRの建設が進む夢洲を訪れた。
■「半分が水」の土砂で造られたIR予定地
「夢洲って、淡路島みたいにもともとあった島やと思っている人が結構いるんですよ。でも違います。ご覧のように、ゴミなどを埋め立てるために造った人工島です」
藤永さんはまず、夢洲の成り立ちから説明してくれた。
「約1800年前、大阪平野の大部分はまだ海の中でした。長い年月をかけて淀川や大和川、瀬戸内海が運んだ土砂が積もり、現在の陸地ができあがったんです。
だから大阪市内、特に沿岸部は全体的に地盤が軟らかい。夢洲は、まさにその軟弱な海底地盤の上に造られた人工島です」(藤永さん、以下同)
藤永さんが問題視するのは、そもそも、こうした軟弱地盤の上に巨大なIR・カジノを建設することだ。
夢洲は現在、大きく4つの区域に分けられている(図参照)。このうち、3区がIR・カジノ予定地だ。
藤永さんが大阪港湾局から入手した資料によると、夢洲の地下には「“お豆腐みたいな”やわらかい粘土層・沖積層」が約30メートルも堆積しているという。
というのも、夢洲や3区の造成には海底や河底を掘り起こして生じたドロドロの“浚渫(しゅんせつ)土砂”が約6千万トン投入されており、その上に土を積んで固めているから、やわらかいのだという。
さらに、情報公開で入手した「濃度計量証明書」には、その浚渫土砂の含水率が“49.2%”と記されているという。
「つまり、夢洲の地盤は、約半分が水なんです。
私は以前から液状だと言ってきましたけど、これでは、地震が起きたら“水びたし”になってしまいかねません」
加えて、藤永さんが注目したのが、同じ資料に記された化学物質の数値だ。「この浚渫土砂には、総水銀が基準値の480倍、PCBは993倍という驚くべき数値が記載されていました」
そのほかにも、隣接した1区には、関係者以外“立ち入り禁止”の管理型処分場があり、「カドミウムや六価クロム、鉛、フッ素物など、さまざまな有害物質を含む約1800万トンの焼却残渣(ざんさ)など汚染土壌が埋められている」と、藤永さんは懸念する。
「こうした汚染物質を扱う場所では、外部へ持ち出さないために、必要に応じて靴底や車両のタイヤを洗浄するなどの管理が行われます。IR・カジノ建設予定地のすぐ隣に、それほど慎重な管理が求められる場所があるんです」
■「何もしなければ約2.3メートル沈む」
大阪市は、IR・カジノ建設予定地について、134カ所でボーリング調査を行っている。藤永さんが情報公開した「土壌改良工事報告書」によると、地下に水がたまっている場所も示されており、工事区域については、すべて「液状化対策が必要」との評価が下っているという。
そのため、藤永さんによると、建設にあたっては地中にセメントと固化材を混ぜ込み、地盤そのものを固める深層混合固化工事が必要になるという。こうした“地盤対策”の費用には、市税約410億円が投じられているというが、「これだけですむはずはない」と、藤永さんは懸念する。
「私が情報公開請求で入手した資料によると、ホテルやカジノ、劇場などが入る『MGM大阪』というメインの施設は、地上27階、地下1階で、高さ126メートルに及びます。
このような高層建造物を建てる場合は、杭を約80メートル下まで深く打ち込んで支えなければならない、と記されているのです」
藤永さんが、さらに資料を読み込んでいくと「何も対策をしなければ、将来的に地盤が約2.3メートル沈下する」とまで、記されていたという。
「港湾局に『この杭の費用は誰が負担するんですか』と聞いたら、『事業者です』という説明でした。ただ、資料を読み込むと、下水道の接続費用などについては『関係者で分担する』と書かれているものもある。では、その“関係者”とは誰なのか。IR事業者なのか、大阪府なのか、大阪市なのか。そこを曖昧にしたまま進めるのはおかしいと思っています」
■地中に打ち込んだ「排水材」17万本を抜き取る工事も
さらに、建設予定地では、地盤に含まれる大量の水を抜く工事も行われている。「PBD(プラスチック・ボード・ドレーン)と呼ばれる大きなストローのような排水材を地中に打ち込んで、水を抜いて地盤を固めるんです。ところが、排水材が突き刺さったままでは、その後の土壌改良工事ができない。
ですから、水を抜いたら、今度はPBDを抜き取る必要が出てきます。私は最初、排水材はせいぜい1~5メートルくらいのものかと思っていました。でも実際には40メートルを超える長さのものもあるようです」
藤永さんが、情報公開請求で入手した資料によると、PBDは1本約3万円――。
「IR予定地では約17万本も抜かなければならないとされています。これも当初は見えていなかった大きな予算です。杭を引き抜く費用は誰が負担するのか。それも明らかではありません。だから、まだまだ調べなあかんのです」
実際に、記者も藤永さんに同行してIR・カジノ建設予定地に行ってみると、巨大なクレーンが林立していた。
杭を打ったり、抜いたりといった土壌改良工事を行っているのか……。
■電子ゲーム6400台、年間2000万人を見込む巨大カジノ
IRの中核を担うのは、やはりカジノだ。事業者のMGM大阪の事業設計書によると、カジノには、スロットマシンなど約6400台の電子ゲーム機に加え、バカラなどのテーブルゲーム約470台も設置されるという。
IR全体では年間約2000万人の来場を想定。その内訳は国内客約1400万人、海外客約600万人とされている。
しかし、藤永さんはその見通しにも疑問を呈する。
「年間2000万人ということは、単純計算すると毎日5万人以上です。本当に毎日それだけの人が地下鉄に乗って、夢洲まで来るのでしょうか」
さらに8月8日には、大阪・関西万博会場の跡地開発をめぐり、別荘エリアを設ける構想が浮上していることも報じられた。
「何も対策をしなければ、将来的に2メートルを超える地盤沈下が想定されている土地ですよ。建物そのものは、地中深くに打ち込んだ杭によって支えられたとしても、周囲の地盤まで同じように支えられるわけではありません。南海トラフ地震が起きて地盤が沈めば、建物との間に段差が生じる可能性があります。液状化して、避難用のボートが必要になるかもしれません。
出入り口や道路、上下水道などのインフラはどうなるのか。さまざまな有害物質も含まれている土壌です。夢洲の土地が抱えている問題を考えれば、進めていい話ではないと思っています」
軟弱な地盤を改良し、杭を打ち、巨額の費用をかけて巨大なカジノやホテルを建設する。その隣では、万博跡地を利用した別荘を含む新たな開発計画も動き始めている。
そこまでして夢洲の開発を進めることが、本当に大阪の発展につながるのか――。
藤永さんは、行政が公開する膨大な資料を一枚ずつ読み解きながら、問い続けている。