「自分の名前すら言えない…」ドラマ『リーガルビート』吃音監修の医師が明かす苦悩と「声とことばマーク」への願い

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「自分の名前すら言えない…」ドラマ『リーガルビート』吃音監修の医師が明かす苦悩と「声とことばマーク」への願い

「声とことばマーク」を作った富里周太先生



現在放送中のドラマ9『リーガルビート -逆転の法廷-』(テレ東系)が話題を集めている。言葉が詰まり満足に思いを伝えられずに悔しさを味わってきた吃音がある新人弁護士が、ラップのリズムに乗れば詰まることなく、思うままに話すことができるようになる。

本作で「吃音」の監修を務めているのが、慶應義塾大学医学部、耳鼻咽頭化の医師である富里周太先生(40)だ。

「ヘルプマーク」や「マタニティマーク」など、町中で助けが必要であることを周囲に知らせるマークをご存じだろうか。このたび、吃音や失語症など“喋ること”に不安を抱える人たちのための新しいマーク「声とことばマーク」が誕生した。

■名前すら言えない……電話が怖くて髪も切れない日々

このマークの作成に関わった富里先生は、自身も吃音で悩んできた経験をもつ。

富里先生が自身の吃音を自覚するようになったのは10歳の時だった。

「小学校4年生のとき、学校で劇の『白雪姫』の練習をしていて、鏡のセリフ『それは、あなたです』というところで、『それは、……』と詰まってしまって、その後が言えなかったんです。
そのとき、先生から『しっかりやれ!』と怒られてとても悔しかったことを覚えています」(富里先生、以下同)

富里先生が本格的に吃音で悩むようになったのは、大学の医学部へ進学するために東京で一人暮らしを始めたころから。大学生となり、人前で自己紹介をする機会が増えた。

「実習などで自己紹介をするとき、自分の苗字の『とみさと』すら詰まって言えないんです。一人で家で練習するときは問題なくできるのに、人前に出ると、途端に詰まって声が出なくなってしまう。皆がいとも簡単にできていることが、なぜ自分にはできないのだろうかと悩むようになりました」

その結果、人前で話す機会を避けるようになってしまったと振り返る。一時期は社交不安症(対人恐怖症)になってしまい、家から出られなくなった。電話で話すことにすら恐怖心を覚えたという。

「電話は相手の顔が見えない分、不安が増します。
当時は散髪の予約をするのに、電話をかけるのが嫌で、髪が相当伸びてから、たまにバッサリ切るということを繰り返していました」
■「他人はそこまで気にしていない」ーーどん底で見つけた一筋の光

人前に出ることを極端に恐れ、悶々と一人で苦しんだ。

しかし、いつまでも落ち込んでばかりもいられない。医学の世界に足を踏み入れたこともあり、自分の症状についていろいろと調べるようにもなった。

「吃音の人は社交不安症(対人恐怖症)になりやすい」ということを知り、「まさに自分のことだ!」と思った。「社交不安症」とは人と関わることや人前に立って注目を浴びるような場面に不安や恐怖を覚え、それが生活に支障をきたすほどの症状を指す。

富里先生に吃音が発生するときは、自分の中にある「不安」がトリガー(引き金)となっていた。実は他人はそれほど気にしていないのに、本人は「人前でうまく言えなかったらどうしよう」とものすごく悩み、実際に人前に出たときにちゃんと喋れない、と「やっぱりダメだ」と自己嫌悪を繰り返しているうち、どんどんと自分に自信がなくなっていったと振り返る。

「確かに、自分から不安を感じる場面を避けるようになった結果、人前を避けるようになってしまっていたのですが、そうすることで一層自分に自信がなくなり、不安を募らせるんだということも実感しました。


でも、実は他人はそれほど自分の発声を気にしていないことが多いことや、吃音や人前に対する不安が『ブロック』と呼ばれる声がつっかえる症状の要因になっていたこともわかってきました。」

不安がブロックの要因だと自覚し、不安と向き合っていくうちに、「吃音が出たって、自分の名前が伝わればいい」と開き直るようになれた。そしてブロックが短くなり、少しずつ社交性を取り戻すことができるようになった。

「このプロセスは、結果的に認知行動療法と呼ばれる方法です」と富里先生は言う。

■孤独を救う「声とことばマーク」に込められた願い

医師としての専門は、吃音も扱う耳鼻咽喉科に決めた。

そして、自らの体験から、吃音、社交不安症、認知行動療法をテーマに、臨床や研究を進めていく傍ら、同じように声とことばに悩みを持つ仲間たちと「声とことばマーク」を作ろうと計画した。「声やことばが出にくいとき、周囲にそっと配慮をお願いできるマークがほしい」という思いが募ったからだった。

そこには、吃音だけでなく、発声障害、トゥレット症、失語症、口唇口蓋裂などの異なる背景をもつ人たちも含まれる。223件の公募から、マークが選ばれた。


「喋ることに不安のある人は孤独になりがちです。仕事を選ぶときも、できるだけ人と話さずに済む職業や職場を選ぶ人もいるくらいです。しかし、彼らも周囲の理解があれば、選択肢も広がるし、生きづらさのハードルが下がると思います。私もそうですが、理解のある人が相手だと吃音があっても精神的な負担が軽くなるからか、話しやすくなります」

マークが必要な人は公式HPからマークをダウンロードし、印刷するなどして活用できる(個人の営利目的には使用禁止)。グッズの販売も開始している。

「当事者の方はこのマークを鞄などにつけて、一人で悩まないでほしい。またこのマークをつけている人を見たら、どんなコミュニケーションが必要か相談してほしいです」

将来的には役所の窓口やコンビニなどにもマークを掲示したいと考えている。

【プロフィール】
(とみさと・しゅうた)
慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学教室助教。
耳鼻咽喉科医師。慶応義塾大学病院の吃音外来担当。著書に『自分でできる吃音の認知行動療法』(学苑社)がある。テレ東系で7月24日から毎週金曜21時~放送のドラマ『リーガルビート ―逆転の法廷―』で吃音監修を務めている。

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