「想定の外側で起きた事故だった」熊本地震・イオンモール爆発事故 専門家が訴える“検証の重要性”
熊本県嘉島町のイオンモール熊本。爆発があり、多くの人が閉じ込められた。7月29日現在も、救助が続けられている(撮影:梅基展央)
7月28日に発生した最大深度7の熊本地震。1週間以上発つが、今も多くの人が避難所での生活を余儀なくされている。今回の震災で、とりわけ甚大な被害が発生したのが、イオンモール熊本で地震後に発生した大規模爆発事故だ。
イオンモール熊本では、地震発生から約30分後までに、来店客と従業員合わせて約4500人の避難が完了していたが、発生から約1時間20分後、館内で大規模な爆発が発生。イオンは8月2日、死者7人、負傷者26人の計33人の人的被害を確認したと発表した。
犠牲者の中には、一度は屋外へ避難したものの、その後、館内へ戻ったことで被害に遭った人もいた。
報道によると、テナント勤務の従業員2人は、勤務先から「売上金を金庫にしまってほしい」と指示を受け、店内へ戻った際に爆発に巻き込まれ死亡。また、別の3人も貴重品を取りに戻るため館内へ入り、そのまま犠牲になったという。
7月29日の会見で、イオンの吉田昭夫社長は「爆発は想定しきれなかった」と説明した。なぜ、地震発生から1時間30分も経ってからこれほど大規模な爆発事故が起きたのか。
南海トラフ地震に備えた防災にも携わる、愛知県立大学名誉教授で地域災害弱者対策研究所所長の清水宣明氏は、今回の事故について「法律と危機管理意識の隙間を突かれた事故だった」と指摘する。
「まず強調したいのは、イオン側の初動対応そのものにすべての問題があったとは言い切れないということです。防災マニュアルは整備されていたでしょうし、実際に約3000人の来店客の避難は混乱なく完了しています。
大地震だったことで、人々は建物の外へ出たいという衝動を強く持ったでしょうがイオンモール側が外に避難させたのは、災害時の対応マニュアルでそうなっていたからと、”建物自体がすぐに危険だと判断した”からというよりも、震度6強の揺れによって店内が大きく乱れて営業継続が困難になりましたしし、客も”早く帰らなくては”との意識だったからではないでしょうか。実際の映像を見る限り、従業員が強い緊迫感をもって避難誘導したり、来店客パニックになって逃げたりしている様子はほとんどありませんでした」
一方で、事故につながったとみられるのがLPガスの大量漏洩だ。清水氏は、空調設備などに使用されていたLPガスの配管が地震の揺れで破損し、大量のガスが漏れ出した可能性が高いとみている。
「被害の大きかったLPガスの貯蔵タンク側は、搬入スペースとバックヤードになっていて、ガスの配管はそこを通って屋上の空調機器につながっていたと思われます。その配管が地震の揺れで破損し、短時間に大量のガスが漏れたのでしょう。もちろん、飲食店用のガス配管もありますが、熱交換器用と比べれば細いでしょう。漏れ出した大量のガスが搬入スペースやバックヤードなどに滞留したと考えられます。
今回は不運なことに、地震発生直後、職員の多くが来店客の避難誘導にあたっていたため、ガスが充満していったとみられるバックヤードにほとんど人がいなかったと考えられます。そのため、異変に気づけなかったのでしょう。LPガスは空気よりかなり重いので、バックヤードのガス濃度は急速に上がっていき、約2〜9%とされる爆発濃度に達してしまった」
そして、漏れたガスに何らかの電気設備の火花が引火し、に衝撃波が発生するほどの激しい爆発である「爆轟(ばくごう)」に近いことが起きた可能性がある。
「爆轟とは、大量の可燃性ガスが急激に燃焼することで発生する大規模な爆発です。
通常の爆発とは異なり、空気が音速を超えるほどの急激な熱膨張で圧縮されて衝撃波が発生し、1平方メートル当たり数トン以上もの力が構造物に加わることがあります。今回は、漏れ出したガスの量が多く、濃度も爆発限界の上限近くに達していたと思われるため、爆轟になった可能性があります。
この衝撃波が館内を一瞬にして広がり、天井や壁を吹き飛ばし、建物全体を破壊したのが今回の事故の正体だと思われます。ただ、衝撃波はその後ろ側に真空に近い空間を生じますので、火災は起こりにくいとされます。また、2階の床の損傷が激しいことが注目されていますが、2階で爆発したとも限りません。2階の床は、上からの加重には強いですが、下からの加重には弱いので、下からの爆風でも簡単に吹き飛びます」
爆轟は極めてまれな現象だが、過去にも大きな被害をもたらしている。1980年に発生した静岡駅前地下街爆発事故では、死者15人、負傷者223人を出したが、爆轟が発生した可能性があるとされている。また、その性質は「燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)」にも利用されているという。
では、なぜ今回のような大規模爆発を防ぐことができなかったのか。清水氏が問題視するのは、大規模商業施設におけるLPガス設備への規制や、災害時の危機管理体制のあり方だ。
「現在、地下街や高層ビルでは、ガス漏れ警報器や感震遮断弁などについて、かなり厳しい規制があります。しかし、法律上はそのようなガスが滞留しやすい場所を中心に対策が求められている印象で、イオンモールのような大規模商業施設については、一般家庭と同列に留まり、十分な想定がされていなかった部分があるのではないでしょうか」
ただし、清水氏は「何の対策も取られていなかった」という意味ではないと強調する。
「配管の破損による大量漏洩や震度5強以上の地震が発生した際に作動する遮断装置の設置は義務づけられていますし、実際に設置されていたようです。中央管理室でもガス漏れを検知できたでしょう。そして、遠隔操作によって貯蔵タンク側の元栓を閉じることも可能だったと考えられます。
それにもかかわらず大規模な爆発に至ったとすれば、感震装置が正常に作動したのか。
中央管理室で異常を把握できたのか。なぜ異常を認識してから遮断までに時間がかかったのかなど、設備の状況と運用体制について、詳細な検証が必要です」
今回の事故では、一度避難した後に館内へ戻った人々が犠牲となったことも大きな課題として残った。清水氏は、安全確認が完了する前にテナントなどの従業員を建物内へ戻したことや、それをイオンモール側の管理の許可を得ずに行ったことが被害拡大につながった可能性を指摘する。
「イオンモールなどの大規模商業施設は本来、災害時の避難場所として活用されるほど、頑丈で安全性の高い建物です。そのため、地震が起きたからといって必ず屋外へ逃げ出せばばよいというわけではありません。むしろ、状況によっては屋外避難が混乱や二次災害につながる可能性もあります。屋外避難させるなら、出た後の安全管理も必要です。津波避難のように、むしろ館内に避難させなくてはならないこともあります。
重要なのは、建物内外の安全を確認し、ガス漏れなどの危険を取り除くことです。一般家庭では地震が起きれば、まずガス漏れを疑います。それほどガス管理は重要視されています。しかし、大量のガスを扱う施設で、その意識がどこまで徹底されていたのかは検証する必要があります」
法律上の基準を満たしていたとしても、それだけで十分な安全が確保されるとは限らない。清水氏は、今回の事故について「法律上は問題なくとも、防ぐことができた可能性のある事故だったでしょう。少なくとも被害の規模は小さくできた悲しい事故だった」とし、今後の対策強化を訴える。
「イオンのような大手企業が意図的に安全対策を怠った可能性は小さいが、法規制が最低限の基準にとどまっていたために、ガス漏れと爆発の可能性の認識が甘くなり、発災時の対応がが後手後手になってしまった可能性があります。
大地震発生時にガス漏れへの確認と対応が即座にできる仕組みになっていたのか。
遮断装置は機能したのか。中央管理室で検知や制御が可能だったのか。ガス漏れの可能性に対処する意識やマニュアルや行動があったのかどうか、徹底した検証が必要だと思います」
清水氏は、今回の事故をきっかけに、「大規模商業施設におけるLPガスの貯蔵や使用について、新たな基準が設けられる可能性がある」と指摘する。
「単なる“想定外”として片づけるのではなく、また、ガス爆発防止のためだけでなく、今後発生することが避けられない大小の発災時の緊急対応、つまりエマージェンシー・コントロールのあり方を根本から見直すための教訓にしなければならないと思います」
11日、イオンは、従業員の要望を受けて再入館を認めた事実があったと発表。地震を防ぐことはできないが、こうした二次災害を繰り返さないよう対策が求められる。