《「大阪市廃止」隠しを“自作自演”か》「副首都と都構想は別もの」維新ミスリードに専門家が警鐘
「大阪市廃止」という言葉を使ってほしくない!? 維新の会の吉村洋文代表(撮影:長谷川新)
「ミャクミャ区」「ハルカス区」――。
3度目となる「大阪都構想」の住民投票を見据え、大阪維新の会が特別区の名称を募集し、そんなユニークな案も話題になっている。
だが、「そんな軽い話ではないんです」と警鐘を鳴らすのは、社会学者で帝塚山学院大学名誉教授の薬師院仁志さんだ。
「政令指定都市である大阪市を廃止して特別区を設置するには、法律で住民投票が義務づけられています。つまり、それだけ重大な制度変更なんです」
「大阪都構想」の根拠となるのは、『大都市地域における特別区の設置に関する法律』だ。たとえば大阪市など、政令指定都市を廃止し、その区域に“特別区”を設置する手続きを定めている。設置には住民投票で有効投票の過半数の賛成が必要となる。
現在、大阪府と大阪市は、この法律に基づき「法定協議会」を開き、大阪市を廃止して4つの特別区を設置する制度案を検討している。
ところが、その法定協議会の正式名称は、『副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会』と名付けられている。この名称に対し、「大阪市廃止をとめよう市民ネット」の山川よしやすさんは、こう疑問を呈す。
「“副首都”と“大阪都構想”は別の制度なのに、この名称では一連のものであるかのような誤解を生みます」
山川さんが住民に説明すると、「とくに若い世代では、副首都にするための住民投票だ」と思っている人も少なくないという。
■“副首都”になるための住民投票ではない
前出の薬師院さんも、「副首都と都構想はまったく別の話だ」と、強調する。
「住民投票で可決されたからといって、大阪が自動的に“副首都”になるわけではありません。住民投票で問われるのは、あくまでも大阪市を廃止して特別区を設置するかどうかです。ここを間違えてはいけません」
一方、横山英幸大阪市長(45)は、6月4日の定例会見で「副首都をめざすのであれば大阪都構想をめざす」と説明。また、市の広報などで「大阪市を廃止」という表現を使うことには否定的な考えを示している。
これに対して薬師院さんは、「大阪市が廃止されると知ったら、賛成する人がほとんどいなくなるからではないか」と、こう矛盾を指摘する。「行政の人的な余力が十分ではないなかで、大阪市を解体する巨大な作業と、副首都としての機能を整備する巨大な作業を同時に進めるというのは、行政実務としても矛盾しています。本当に副首都を目指すのであれば、政令指定都市である大阪市を残したうえで、副首都に向けての準備に総力を挙げたほうがいい。同じく副首都を目指す福岡も、福岡市を廃止して特別区にしなければならないのか。そんなことはないでしょう」
■橋下氏「権限、力、お金をむしり取る」
では、なぜ2度の住民投票で否決されても、3度目の都構想を進めるのか。薬師院さんが振り返るのが、2011年6月29日、当時大阪府知事だった橋下徹氏(57)の発言だ。
「橋下氏は『大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る』と発言しています。私は、ここに本音が出ていると思うんです。
大阪市は大きな権限と財源を持っている。それを府に持っていき、IR(カジノを含む統合型リゾート)などの大規模開発に使いやすくする。そういうことではないのか、と私は見ています」
一方で維新側は、都構想の目的として“二重行政”の制度的な解消などを掲げてきた。
「最初の住民投票では『二重行政をなくす』ということが盛んに言われました。しかし、『二重行政で困っている。毎日困っているから、なんとかしてくれ』と言っていた市民がどれだけいたのか。そんな人、ほとんどいないでしょう」
結局、一度目の住民投票では否決――。
「その後、今度は“副首都”という言葉を前面に出してきた。
でも、何度も言いますが、副首都と都構想は別のものなんです」(薬師院さん)
横山市長自身も6月4日の定例会見で、「副首都と都構想は別のプロジェクト」と認めている。そのうえで、「副首都をめざすのであれば大阪都構想をめざす」と説明している。
■今度は「廃止」を「再編」に?
そして、いま争点になっているのが「大阪市廃止」という言葉だ。
2015年の1回目の住民投票では、投票用紙に「大阪市廃止」とは書かれていなかった。
そこで薬師院さんらは2018年、「大阪市が廃止される事実を投票用紙に記載してほしい」と陳情。維新以外の賛成多数で採択され、2020年の2回目の住民投票では「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」と明記された。
ところが今回は逆の動きが起きている。「9月25日、大阪市議会財政総務委員会は、『大阪市を廃止する』という表現を避け、『再編』などと表記するよう求める市民グループの陳情を、維新市議らの賛成多数で採択しました。
ところがその後、陳情者34人のなかに日本維新の会所属国会議員の秘書ら複数の維新関係者が含まれていたことが判明。さらに別に、維新府議の秘書がほぼ同趣旨の陳情を提出し、審議前に取り下げていたことも明らかになっています」(在阪記者)
維新側は議員や党からの指示を否定しているが、「自作自演」との批判も高まっている。10月2日、維新の会の吉村洋文代表(51)は「外形的には議員からの指示があったと思われても仕方ない。慎重にすべきだった」と述べつつも、採択された陳情は尊重されるべきだと語っている。
一方、「大阪市を廃止し、特別区を設置する」と投票用紙に明記するよう求める陳情は不採択となった。3度目の住民投票では、「大阪市廃止」の文字が再び消えるのか。
「書かれない可能性はあるでしょうね」と薬師院さん。ただし、最終的に投票用紙の文言を決めるのは大阪市選挙管理委員会だ。
薬師院さんはこう訴える。
「副首都になるための住民投票だと思っている人は少なくありません。でも、そういう住民投票ではなく、大阪市を廃止するかどうかを決める投票なんです。まず、そのことを正しく伝えないといけない」
「ミャクミャ区」か、「ハルカス区」か――。区の名前を考える前に、市民に知らせなければならないことがあるのではないだろうか。