「息子は深夜に仕事を…」万博工事費未払いで会社休眠の悲惨!アンゴラ政府が救済も、被害業者が訴える吉村知事の「二重基準」
10月21日、「万博工事未払い被害者の会」の会見の様子
「今は被害者というよりも、犠牲者になっています。解決策が見えない。終わりも見えない。いつまで続くのかというなかで、みんなが苦しんでいるんです」
こう訴えるのは、大阪・関西万博の海外パビリオン建設工事で、代金の未払い被害に遭った建設業者のAさんだ。
万博が閉幕してから1年。いまだ工事代金を受け取れず、経営や生活を脅かされている業者がいる。
10月21日、「万博工事未払い被害者の会」は大阪府庁で記者会見を開き、代表の来田健二さん(43)と他2名の被害者に加え、この問題を追及し続けている在阪ジャーナリストの西谷文和氏らが出席して日本政府や2025年日本国際博覧会協会(以下、万博協会)、大阪府・市に対して、改めて早急な救済を求めた。
経済産業省などによると、海外パビリオン11館の工事をめぐり、30社以上から未払い被害の相談が寄せられているという。
そんななか、今月13日に明らかになったのが、アンゴラ政府による異例の救済だった。
本誌でも報じたが、アンゴラ館の建設工事で約4,300万円の未払い被害に遭った被害者の会の代表・来田健二さん(43)に対し、アンゴラ政府が約1,700万円を支払ったのだ。
「アンゴラ政府は、すでに元請け企業に工事代金を支払っており、来田さんに直接支払う法的義務はありませんでした。それでも“人道的な理由”から、国内で法律をつくってまで救済に踏み切ったのです」(在阪記者)
一方、万博協会の副会長でもある吉村洋文大阪府知事(51)は、14日の記者会見でアンゴラ政府の対応について「いいことだ」と歓迎。しかし、大阪府や万博協会による立て替え払いには「法的根拠がない」として、難しいとの認識を示している。
■法律で守られるはずの権利が失われた
今回の記者会見では、さらに行政の責任を問う声が相次いだ。
来田さんが問題視するのは、万博協会や行政が「民間同士の問題」としていることに加え、建設業法に基づく対応が十分に行われてこなかったことだ。来田さんは、会見でこう述べた。
「建設業法第41条には、元請けによる立て替え払いなど、下請け業者を保護するための規定があります。ところが、今回の万博では、そうした法的な保護が十分に機能していないんです」
来田さんによれば、アンゴラ館の工事では、国と万博協会、現場の関係者の間で、どの企業が元請けに当たるのかについて認識が異なっていたという。
「何度も国や万博協会に、いったいどこが元請けなのか、明確にしてほしいとお願いしてきました。しかし、結局、答えが出てこなかった。本来であれば法律によって守られるはずの権利が、結果として失われてしまったんです」
さらに、来田さんは吉村知事の発言にも強い不満を示した。
「吉村知事は、『債権を確認できるものがない』という趣旨のことをおっしゃっていますが、私に関して言えば債権を確認できる資料はあります。1年以上前から経産省にも提出しています。きちんと契約書を交わし、必要な書類をそろえている業者もいるんです」
そのうえで、こう訴えた。
「吉村知事の発言によって、きちんと対応している業者まで理不尽な誹謗中傷を受けているんです。『救済したい』『何とかしてあげたい』という思いがあるとおっしゃる一方で、実際にやっていることは真逆になっていると感じています」
■大手企業は「被害者」、下請け業者は「民民」なのか
来田さんは、万博の大屋根リング工事をめぐる水増し請求事件で、元所長の男性が背任の罪に問われた事件に関し、吉村知事の対応にも疑問を投げかけた。
「私たち被害者に対しては『民民の問題だ』と言って切り捨てる。ところが竹中工務店に関しては、事件を起こした元所長が悪いのであって、竹中工務店は『被害者だ』とおっしゃっている」
来田さんが疑問視するのは、相手が中小の下請け業者か、大手企業かによって、あまりにも吉村知事の対応が違いすぎるのではないか、という点だ。
「吉村知事は、本来、法律に基づいて公平に対応すべき立場の方ですよね。不正を見抜けなかった会社の管理体制についても、建設業法に基づく監督・指導の対象にならないのか、行政として検証すべきではないでしょうか。また、吉村知事も万博協会の副会長として、不正の実態を確認し、必要に応じて所管する行政機関に対応を求めるべきだと思います」
■「民民」の2文字で見捨てられた
会見では、未払いによって生活を大きく変えられた業者たちも、その苦境を語った。
前出のAさんは、大手ゼネコンが海外パビリオン建設から手を引くなか、中小企業に協力が求められたと振り返る。
「何とか万博を成功させたい。世界中から来られる方々に喜んでいただきたい。そういう思いで協力したんです」
工期は厳しく、昼夜を問わず働いて開幕に間に合わせたという。
「私たちは、むしろ称えられることはあっても、批判されるようなことは何一つしていないと思っています。ところが工事代金が支払われず、本当に多くのものを失いました。これまでどおりの生活も、仕事もできなくなったんです」
Aさんたちは、当初から国や大阪府に支援を求めてきた。
「未払いになっている工事代金を、すべて国や大阪府に肩代わりしてほしいと言っているわけではありません。今の苦しい状況を乗り越えるために、最低限の力を貸してほしい。
それだけなんです」
しかし、返ってきたのは「民間同士の問題」という説明だった。
「結局は『民民』という、たった2文字の言葉で見捨てられてしまったんです」
■「息子には悪いことをした」父親が明かす苦悩
さらに深刻なのが、ルーマニア館とセルビア館の工事に携わったBさんのケースだ。
Bさんによると、工事を請け負ったフランスのイベント大手GLイベンツ・ジャパン(以下、GL社)の担当者から、現場で次々と追加の作業や資材の手配を求められたという。
「工事中はGL社の担当者が何度も現場に来て、資材の追加などを次々と指示するんです。言われたとおりに用意しても、余った資材は放置されたまま。建設機械も必要以上に長く現場に置かれ、その分の費用がかさんでいきました」
GL社から工事代金は支払われず、ルーマニア館だけで約2,000万円の未払いがあるという。
「私たちの下には何社もの協力業者がいます。『上からお金が入らないから払えない』では済まされません。
苦しいなかでも協力業者への支払いを続けてきましたが、銀行からの融資も難しく、何度大阪府・市に訴えても冷たい対応しか返ってきませんでした」
Bさんは、蓄えのほとんどを支払いに充てたという。
「会社は息子が引き継いでいましたが、未払い問題によって仕事を続けることが難しくなって、現在は休眠状態です。息子は深夜の仕事をして生計を立てています。そういう生活が、もう1年近く続いているんです。息子には本当に悪いことをしたと思っています」
■大手ゼネコンが撤退したリスクを、なぜ中小企業に説明しなかったのか
こうした被害が生まれた背景について、会見にも同席していたジャーナリストの西谷文和さんは、万博協会の対応に問題があったと指摘する。
西谷さんによると、2023年9月、万博協会は中小建設業者向けの説明会を開いていた。
「この時点で、大手ゼネコンは海外パビリオンの建設について、工事代金を回収できないリスクがあると判断していました。だから工事を引き受けなかった。
そこで万博協会が中小企業に『何とか助けてください』と協力を求めたわけです」
しかし、西谷さんは、その説明会資料には重要なことが抜け落ちていたと語る。
「大手ゼネコンがなぜ海外パビリオンの建設から手を引いたのか。資金回収のリスクがあったからです。ところが、そのことを中小企業には説明していなかった。私は、そこに大きな問題があると思っています」
万博の成功を優先するあまり、工事代金を回収できないリスクが、立場の弱い業者に押し付けられたのではないか――。西谷さんは、そう疑問を呈した。
■公表されなかったオマーン館の未払い解決
さらに会見では、新たな事実も明らかにされた。
来田さんによると、現在は解決しているものの、オマーン館でも工事代金の未払いが発生していたことを、これまで公表してこなかったという。
「万博協会の職員がオマーン大使館を紹介し、大使館を通じて、工事代金を支払っていなかった元請け企業に働きかけた結果、支払いが完了したという説明を受けています。
解決できたこと自体は非常に大事です。しかし、問題は、その事実を公表していなかったことです。ほかにも未払い事案があるのであれば、正しく公表していただきたい」
来田さんは、万博協会に対して、未払いの実態を改めて調査し、公表するよう求めた。
■救済法案をもう一度国会に
被害者たちが求めているのは、未払い問題を解決するための新たな救済制度だ。
昨年12月15日には、立憲民主党など野党4会派が、未払い業者の持つ債権を万博協会が買い取り、代わって工事代金を回収できるようにする救済法案を衆議院に提出した。しかし、今年1月23日に高市早苗首相(65)が衆議院を解散したことで、法案は審議未了のまま廃案となった。
「アンゴラ政府は、法的な支払い義務がないにもかかわらず、人道的な理由から救済してくれました。日本でも、もう一度、救済法案を提出していただきたいんです。吉村知事が本当に『何とかしたい』と思っているのであれば、法案が提出された際には、日本維新の会にも率先して審議に協力していただきたいと思います」
万博の華やかな成功の陰で、いまだ工事代金を受け取れず、生活を立て直せない業者たちがいる。その救済は、いつ実現するのだろうか。