伏見の酒蔵率いる42歳ママ杜氏「子育てと酒造りは似ている」
重厚な木の開き戸から酒蔵に足を踏み入れた途端、蒸し上がった米の芳醇な甘い香りに包まれた。国内有数の酒どころとして知られる京都・伏見で、江戸時代から続く老舗の酒蔵である招徳酒造。築300年という薄暗い蔵の中では、杜氏のもと、5人の蔵人たちが忙しく立ち働いていた。
「いま、甘酒づくりに使う米を洗い、蒸しています」。伏見で唯一の女性杜氏である大塚真帆さん(42)が解説してくれる。杜氏とは、その年の酒づくりの方向性を決め、完成まで陣頭指揮を執る最高責任者。酒蔵といえば“女人禁制”で、杜氏も老練な男性の職人が担うイメージが強いが、近年、全国で女性も登場しつつある。とはいえ、まだ数は少なく、招徳酒造でも女性杜氏は大塚さんが初めて。
現場で働く蔵人も全員が男性だ。
12年前に女性初の杜氏になったとき、大塚さんはこう公言した。
「守るべき伝統は守りながらも、変えるべきところは変えていきたい」
この言葉どおり、長く伏見でも中断していた伝統的な日本酒製造技法である“キモト造り”を復活させたり、日本酒になじみの少ない女性にアピールするデザインボトルのイラストを自ら手がけるなど、多くのチャレンジを行ってきた。