パート勤めから“西陣の異端児”へ、世界で活躍する65歳女性
数ある日本の伝統織物の、最高峰と位置づけられる京都「西陣織」。なかでも、ひときわ高度な技術が必要とされるのが「爪掻本つづれ織り」だ。その工房の1つを訪ねると、伝統や格式を謳う工芸品が生み出される場にはどうにも似合わない、イマドキの曲が流れていた。
「私ね、『嵐』の大ファンなの(笑)。デビューしたころから応援していて、ファンクラブにも入ってるんです。お気に入りの曲は……ちょっとマニアックなんですけど『ギフト』。家族の誰かのことを歌ってると思うんですけど、大切な人から背中を押してもらった、そんな歌です」
そう語るのは、京都西陣織・伝統工芸士の小玉紫泉さん(65)。小玉さんが手がける爪掻本つづれ織りは、“手技を超えた爪先の技”と称されるほど、繊細な技術が求められる。
機(はた)の脇から杼(ひ)を反対側まで一気に飛ばし、経(たて)糸全てに緯(よこ)糸を通して織るのが一般的な機織りの手順。
ところが、小玉さんは何十本と張られた経糸のほんの一部、数本だけを杼ですくい取るようにして、その部分だけに緯糸を通して絡めていく。