国王からホームレスまで…世界に発信していく「茶の心」
そんな彼を、竹田さんは「日本のお茶です。一服いかがですか」と呼び止めた。男性はけげんな顔をした。伸び放題のヒゲで塞がりそうな口元をモゴモゴさせ、「自分なんかにいいのか?」と言う。
竹田さんはいつものように、自分が点てることのできる最高のお茶を入れるために、一心に茶筅を振った。彼はヒゲをかきむしりながら、黙って見つめている。やがて奇麗な泡が一面に立った抹茶が入った茶碗を竹田さんが差し出すと、おずおずと受け取って一口飲んだ。
すると、それまで険しかったホコリだらけの彼の顔がみるみる柔らかくなり、満足そうな表情で「うまい……」と漏らしたという。
小声で「サンキュー」と告げて去っていく彼に、竹田さんは深々と頭を下げて見送った。
今年10月27日、竹田さんは東南アジアの王国、ブルネイに招かれた。王の即位50周年を祝う式典のティーセレモニーで、300人の招待客が見守るなか王女にお茶を点てた。翌日には宮殿の晩餐会に招かれ、元王妃にお茶を一服差し上げたのである。
王女は「こんなにおいしいお茶は飲んだことがない」