くらし情報『福島に「最先端の測定室と病院」を作った女性、7年間の奮闘』

福島に「最先端の測定室と病院」を作った女性、7年間の奮闘

2018年3月9日 06:00
 

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認定NPO法人「いわき放射能市民測定室たらちね」と「たらちねクリニック」。原発事故後、地元の母親が立ち上げた施設は日本中の研究者から注目を集める。「自分たちしか子どもを守れない」という母親たちの危機感が原動力だった――。

「原発が爆発して、普通に呼吸していいのか地元の野菜や魚を口にしていいのか、わからない状況なのに、誰も放射能の話をしたがらない。福島に来て、放射能を測ってくれる専門家もいない。もう、自分たちで測らないと、殺されると思いました。子どもを守るためには、それしかないと」

7年前の東日本大震災当時の思いについて、そう語るのは、認定NPO法人「いわき放射能市民測定室たらちね」(以下、たらちね)と「たらちねクリニック」を立ち上げた鈴木薫さん(52)。

たらちねは、福島第一原発から約50キロの福島県いわき市小名浜にある。スタッフは、クリニックの院長をのぞいて、すべて女性。多くが母親で、鈴木さん自身も2児の母だ。3.11後、各地に市民放射能測定室が立ち上がった。たらちねは、その中でも放射線の専門家や医師たちから一目置かれる存在だ。

というのも、最先端の放射能測定器を、日本で初めて導入。大学などの研究機関でも測定が難しいベータ線を発する放射性ストロンチウムやトリチウムという放射能を、母親たちでも簡単に測定できるようにしたからだ。ストロンチウムは、体内に入ると骨に取り込まれてがんの原因に。トリチウムは、低濃度でも、染色体異常を引き起こす一因になる危険性が指摘されている。

原発事故が起きた’11年の10月。鈴木さんは地域の母親らと共に、たらちねをオープンした。冒頭のように危機を訴える鈴木さんの姿を見て、食品の放射能測定器を寄付した人がいたのがきっかけだった。そして、「子どもの未来のため」と妥協を許さないお母さんスタッフたちは、測定室を開設して2年ほどたった’13年、専門機関でも測定が難しいベータ線測定をすべく準備を始める。

「最初、たらちねがベータ線の測定を始めると聞いたときは、“幼稚園児がロケットを操縦して宇宙に行く”ほどむちゃなことだと思いました。正確な測定結果を出すまでに訓練が必要だし、それ以前に、測定器の購入だけでも1,000万円以上かかりますから」

たらちねのサポーターで、放射能測定が専門の東京大学環境分析化学研究室・助教の小豆川勝見氏は、そう当時を振り返る。鈴木さんは、講演会や、インターネットの動画などで、測定の必要性を広く訴えた。

「ベータ線を発するストロンチウムやトリチウムの測定には手間もお金もかかるので、国でも、決まったものしか測定していません。検査機関にベータ線の測定をお願いすると、かぼちゃ1個を測るのも20万円かかる。だからこそ、自分たちで、簡単に、安価に測れる体制をつくる必要があったのです。すべては子どもの未来を守るため、の一心です」(鈴木さん・以下同)

その純粋な思いは、多くの人の心をつかみ全国から寄付が集まった。数千万円を超える国内外からの寄付で、たらちねは、最先端のベータ線測定器を、日本で初めて導入した。’14年12月、「ベータ線ラボ」を開設。測定室を併設した、認定NPO法人としては初の「たらちねクリニック」を開設したのは昨年6月のこと。

「たらちねでは’13年から、被ばくによって増える可能性がある“小児甲状腺がん”の検査を定期的に実施してきたので、すでに診療所を開くための資格は取得していました。でも、クリニック開設に踏み切ったのは、ここ数年、抗アレルギー剤や抗うつ剤などを服用する子どもが、周りで増えたからです」

加えて、福島県が実施している子どもの甲状腺検査が「検査はかえって子どもに負担を与える」などの理由で、検査縮小の方向に進んでいることも危惧したからだ。県の検査では、悪性含め、200人近い甲状腺がんが見つかっている。

「いつでも検査が受けられて、気軽に被ばくの心配が相談できる医療機関が必要でした」

行政がやらないなら、自分たちでやるしかない-―。鈴木さんの思いは、測定室を立ち上げたときと同じだった。

「福島県内の病院で、患者に寄り添った被ばくの相談を受けられるのはここだけ。県の甲状腺検査も2年に一度と少なく流れ作業です。たらちねでは、先生がエコー画像を見ながら、その場で説明してくれるし、画像もくれる。心配があれば3カ月に1度、検査をしてくれるので安心です」

たらちねクリニックでは4月から、甲状腺エコー検査に加えて、尿中セシウムの検査や心電図、血液検査などが、まとめて受けられる“子どもドック”を開始する。18歳以下の子どもは無料で実施予定だ。検査や測定にかかる費用は、寄付金でまかなう。最近は寄付金額も増え、多い年には6,000万円を超えることもあるという。

鈴木さんが、最近とても気になっていることがある。それは、内部被ばくを測る“ホールボディカウンタ”の検査を受けにクリニックを訪れる原発作業員の中に、20代前半の若い人が増えたことだ。

「いわき市の福島高専では、廃炉作業に従事する人材の育成が始まっています。なぜ、福島の子どもが重荷を背負わないといけないのでしょうか」

何十年、何百年とかかって、廃炉作業が終わり、汚染がなくなるまで、延々と犠牲になるのは子どもたちなのだ。

「原発事故から7年たっても測り続けるのは汚染や被ばくの現状が続いているから。放射能を測らないということは、生きることをあきらめることです。私たちが死んでも、汚染がなくなるまでたらちねは子どもを守っていきます」

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