2018年6月5日 17:00
ハンガリー父子旅で初めて語った母の不在(辻仁成「ムスコ飯」エッセイ)
息子との父子旅、今回はハンガリーの首都・ブダペストでした。もう14歳ですから、あと何回一緒に旅ができるでしょうね。皆さん、家族旅行していらっしゃいますか?本音を語り合うのは旅先に限ります。家の中だと、どうしても話しにくいことってあるじゃないですか?でも、旅先だと心も緩みますからね。大河ドナウが私たち父子の心を開いてくれました。2人で遊覧船に乗り、爽やかな風を感じながら、たくさん語り合ってきました。遠くには美しいブダ宮殿が、その上を流れてゆく雲のなんと雄大なことか……。
「なんか父ちゃんに話しておきたいことはあるか?」さりげなく、問いかけてみました。
「別に、ないよ」「いじめられたりしてないか?」「ないよ」「寂しいなって思うことはないのか?」「ないよ」本当は、母親の不在について今どのような心境か父親として探りを入れてみたかったのです。この4年間、この話題だけはタブーでした。
3年ほど前のことになりますが、南仏で一度、聞いたことがあったのです。その時、彼は珍しく怒って、「そういうことを訊かないで、ぼくだって思い出さないように必死なんだから」