村上春樹の世界を表す、新しい演劇表現を目指して 那須凜が挑む日英合作『品川猿の告白』
マシューさんの村上作品に対する理解が深いので、稽古をしながら、これまでにない、新しい村上作品の舞台化が見られるのではないかなという気がしています。なので今は、舞台化に対する不安はまったくなくなりました。
――人間の女性に恋し、その名前を盗む“品川猿”が登場するふたつの短編小説、『品川猿』と『品川猿の告白』を巧妙に掛け合わせた台本になっていますね。台本の構成についてはグラスゴーでのワークショップで、マシューさんがホワイトボードにそれぞれの物語の出来事を時系列で書き出して、一週間くらいかけて練っていましたね。私が演じる“みずき”という役の、小説には書かれていない彼女の日常生活の部分を、マシューさんが上手く抽出して構成しています。そうして人物の内面にフォーカスを当てることで、なぜアイデンティティの喪失といったテーマにつながるのかが感じ取れるし、ちゃんと村上さんの作品とリンクしていると思います。みずきは品川猿に名前を取られたから自分の名前を忘れてしまい、それでアイデンティティを喪失した……といった簡単なことではなく、現代に生きる人々の孤独感、生活の中で自分を見失ってしまう瞬間というものにマシューさんは着目しているんですね。