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坂元裕二が描く“兄弟”の物語が再び 舞台『またここか』、座・高円寺で再演開幕

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坂元裕二が描く“兄弟”の物語が再び 舞台『またここか』、座・高円寺で再演開幕

(撮影:阿部章仁)



カンヌ国際映画祭コンペティション部門の脚本賞を受賞した映画『怪物』のほか、映画『花束みたいな恋をした』、ドラマ『カルテット』など、数多くの話題作を生み出してきた脚本家・坂元裕二。そんな彼が8年前に書き下ろした『またここか』が再演されることになり、2月5日(木)、東京の座・高円寺で幕を開けた。そこで初日前日に行われた公開ゲネプロの模様をレポートする。

舞台は東京郊外にあるガソリンスタンド。父から店を受け継いだ店長の近杉がせっせと働くその傍らで、アルバイトの宝居はまったく働く気を見せず、近杉の声かけにもろくに耳を貸さない。と、突然そこにふたりの男女が飛び込んでくる。男の名は根森。小説家らしい。
その根森に無理矢理連れてこられたのは示野、看護師だ。そして根森が近杉に向かって言う。「わたくし、あなたの兄、兄の者でして」。どうやら近杉の異母兄らしいのだが……。

坂元裕二が描く“兄弟”の物語が再び 舞台『またここか』、座・高円寺で再演開幕


劇場に入ってまず目に飛び込んでくるのは、客席を対面に配置したセンターステージ。『坂元裕二朗読劇』の演出補佐を務め、本作では演出を手がける荒井遼はこう語る。「劇場をガソリンスタンドそのものにしよう。通路まで使って人物たちの思いが漏れあふれ出るようにしよう」と。
まさに荒井の狙い通り、客席と役者の距離が近く、登場人物4人の機微が非常に生々しく伝わる劇空間となっている。

だからこそ強く感じられたのが、4人の登場人物たちから漂う違和感だ。そこはかとないズレ、とでも言うのだろうか。自分はモデルありきのバイトだと明言する宝居。家族にも仕事にもいざこざを抱えているらしい根森。そんな根森に強制的に連れて来られた示野。中でも近杉から滲み出るそれは、温和で、優しい口調とのギャップもあり、誰よりも強く感じられる。そんな近杉に対する「?」は時間の経過と共に増幅していくが、それこそがこの物語を大きく動かしていくことになる。


坂元裕二が描く“兄弟”の物語が再び 舞台『またここか』、座・高円寺で再演開幕


そして坂元脚本の魅力は、まさにそんなところにあるのではないだろうか。最初はよくわからなかった小さな違和感や疑問が、いつの間にか物語の根幹をなしていく。しかもそこから派生する悲しみや苦しみを、決していい感じに、もしくはうやむやに解消するのではなく、真っすぐに向き合った上での結果を描く。今回も物語序盤にはまったく予想も出来なかった展開に感嘆。こんなアプローチで兄弟の絆を描いた作品はほかに見たことがないし、坂元にしか書けない。

坂元裕二が描く“兄弟”の物語が再び 舞台『またここか』、座・高円寺で再演開幕


この再演に当たり、演出の荒井だけでなくキャスト陣も一新されている。近杉役の奥野壮は、これまでやったことのないような役どころを好演。前半で見せるどこか純朴な青年像があるからこそ、後半の救いを求める心からの悲鳴が強く、深く突き刺さる。
宝居役の馬場ふみかは、常に飄々と軽やかに、それでいて逞しく存在できる稀有な役者。永瀬莉子演じる示野は、一番の部外者のようでいて実は…というワケありな役どころ。永瀬は初のストレートプレイ参加ながら、丁寧なアプローチでこの難題を見事クリアして見せた。そして抜群の安定感で作品を引き締めるのは、根森役の浅利陽介。いい服を着、いい人生を歩んでいるように見えるが、どうにもズルくて、自分本位で、とても人間らしいのが根森。こういう人物にしっかりと血が通って見えるのは、浅利の高い演技力があってこそ。軽い言葉に聞こえてしまうかもしれないが、やはり本当にうまいし、こういう役者がいてくれるだけで舞台の出来は数段上がる。

坂元裕二が描く“兄弟”の物語が再び 舞台『またここか』、座・高円寺で再演開幕


タイトルの『またここか』は、劇中の台詞としても登場する。
人は何度も同じ過ちを犯したり、いつの間にか同じ道を辿ってしまうものであるがゆえ、ふと我に返った時、「またここか」と呟いてしまうこともあるだろう。そしてその時に心に広がる、落胆と諦め。だがそのすべてを受け入れずに踏み出した一歩は、きっとこれまでとは違う“ここ”に連れて行ってくれるはず。そんなことを、近杉と根森の兄弟は教えてくれた。

取材・文:野上瑠美子撮影:阿部章仁

<公演情報>
『またここか』

作:坂元裕二
演出:荒井遼
出演:奥野壮馬場ふみか永瀬莉子/浅利陽介

2026年2月5日(木)~15日(日)
会場:東京・座・高円寺1

【アフタートーク】
坂元裕二:2026年2月11日(水・祝) 13:00/17:00
出演者全員:2026年2月6日(金) 19:00/2月12日(木) 19:00
関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/matakokoka/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2563436&afid=P66)

公式サイト:
https://matakokoka.jp

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