團子のアシタカ×壱太郎のサン「もののけ姫」がスーパー歌舞伎になる!
(撮影:杉映貴子)
スタジオジブリの名作「もののけ姫」が、スーパー歌舞伎として舞台に登場する。スーパー歌舞伎とは、現代に届く歌舞伎をと二世市川猿翁(当時三世市川猿之助)が40年前に生み出したもの。これまでも「風の谷のナウシカ」が歌舞伎になっているが、歌舞伎の伝統とスペクタクルな演出を融合させたスーパー歌舞伎による上演で、その作品世界はよりダイナミックに展開していきそうだ。アシタカを勤めるのは、猿翁の孫でスーパー歌舞伎を受け継ぐ市川團子。中村壱太郎がサンを演じる。スーパー歌舞伎だからこそ、そして、このふたりだからこそ生み出せる『もののけ姫』とは──。
祖父・猿翁の魂とジブリの代表作 ふたつの冠を背負って
──まずは、「もののけ姫」をスーパー歌舞伎で上演することへの思いをお聞かせください。
團子スーパー歌舞伎は、現代の人にも歌舞伎の魅力を伝えたいという精神のもと、1986年、祖父が創始したもので、第一作の『ヤマトタケル』をはじめ、祖父がライフワークとして創作し続けてきたものです。
今回は初めて、祖父がいないなかでスーパー歌舞伎の新作を立ち上げることになり、スーパー歌舞伎とスタジオジブリの代表作である「もののけ姫」、このふたつの大きな冠のもとで上演することには正直怖さもあります。でも、しっかりと覚悟を持って、誠心誠意舞台に向かっていきたいと思います。
壱太郎舞台で生身で「もののけ姫」を表すことには、とてつもない緊張を感じています。しかも、もののけの姫であるサンという、タイトルロールを演じさせていただくことになる。その使命感を持ちながら、常にアンテナを張って、團子くんをはじめとする皆さんと、このスーパー歌舞伎『もののけ姫』という冒険をしたいです。
──團子さんが演じられるのが、村を襲ったタタリ神を倒して死に至る呪いを受けたアシタカ。掟によって村を追われ、呪いを断つ道を探すためにシシ神の森を目指す途中で、壱太郎さんが演じられる、人間の子でありながら犬に育てられた少女・サンに出会うわけです。それぞれの役を現段階ではどう演じたいと思っておられますか。
團子アシタカにはいくつかキーワードがあると思っています。ひとつは、寡黙な人であること。アシタカの声をなさった松田洋治さんが「ロマンアルバムもののけ姫」という雑誌のインタビューで、アシタカは寡黙だから一つひとつの言動を丁寧に積み重ねていかなければならなかった、というようなことをお話されていたんですけれど。僕もどういう動機でそういう言動をしたのかという裏付けが特に大事になってくるお役だと思っています。それからもうひとつは、王子という身分で、呪われた運命を背負ってそれでも前を向いて進んでいくという点で、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』のヤマトタケルに似ていること。なので、2年前にタケルを勤めさせていただいた経験が活かせればと思っています。
自然と人間の共生の道はないかと奔走したのがアシタカです。シシ神がすべてを破壊し新たに再生していくという運命は変えられなかったと思いますが、アシタカのひたむきな姿が人々の心に残って、十年後、百年後、千年後の世界に大きな影響を及ぼしているかもしれない。
そんなふうに未来に影響を与える人物であるということも意識したいと思っています。
壱太郎僕は、少女と獣をかけ合わせた新たな女方の形を見出していきたいと思っています。ただ、映画「もののけ姫」はもちろん、今出来上がっている台本を読んでもそこには壮大な世界があるなと感じるので。人と人がどう生きるか、人と動物がどう生きるか、さらには人も動物も合わせた生き物が自然とどう生きるか、そういった大きな丸のなかでどうサンを演じるかということを起点に考えていかなければなと思っています。
背負う運命があるからこそ、期待以上のアシタカ像が生まれる
──演じられる役についてさらにお伺いします。壱太郎さんから見た團子さんのアシタカ、團子さんから見た壱太郎さんのサン、それぞれどんな魅力が出てきそうでしょう。
壱太郎それは聞かれたことがなかった(笑)。じゃあ僕から言いましょうか。
團子くんはアシタカを寡黙だと言っていますけれど、本当にアシタカって脳内でいろいろなことを考えていて、それは自分が背負っている運命があるからだと思うんです。そして、役と俳優を重ねることの良し悪しはあるとは思いますが、團子くんにも背負っている運命があって、スーパー歌舞伎に強い思いを持って向かっている。そのことがすでにアシタカという役を確立させている気がするんです。だから、期待以上のアシタカ像というものが、このスーパー歌舞伎『もののけ姫』において生まれてくるんじゃないかと思いますし。僕自身、「もののけ姫」の舞台となっている屋久島に團子くんが行った話を聞いて自分も行こうと決めたり、團子くん発信でいろいろ学ばせてもらっているのでありがたく思っています。
團子とんでもないです。壱太郎さんが演じるサンについては後輩の僕が言えることではないのですが、でもひとつ、祖父が「芸は人なり」という言葉で、最終的には俳優の人間性で決まるということをよく言っていて。まさに壱太郎さんの情熱的で優しくて、寛大な人間性が、サンにつながるなと思っているんです。
サンって、尖っているけれども実は優しくて、その柔らかい心を守るために虚勢を張っているところがあるので、奥にある優しさが見えるにはやっぱり、演じている人の人間性に本当の優しさがないと成立しないのではないかと。僭越ながら、壱太郎さんの人間性が、あの「もののけ姫」のサンを舞台上に再現するのかなと思っています。
壱太郎これだけ言ってもらって再現できなかったらどうするんだっていうことになるね(笑)。でも、お互い、これまでの積み重ねがあるからこそそんなふうに言えるのだと思うし、そういう意味では、お互いのこれまでが最大限に発揮されるのが、今回の『もののけ姫』になるかもしれないです。そんなふたりに、僕にとっては先輩であり勝手ながら良きライバルだと思っている(中村)時蔵のお兄さんがエボシ御前で入ってくださる。とても心強いです。
スーパー歌舞伎『もののけ姫』:アシタカ=市川團子
スーパー歌舞伎『もののけ姫』:サン=中村壱太郎
スーパー歌舞伎『もののけ姫』:エボシ御前=中村時蔵
──時蔵さんが演じられるエボシ御前の魅力についてもぜひお願いします。
團子これも後輩の僕が言えることではないのですが、時蔵さんは、自分を律していらっしゃるイメージがとても強いです。
そこが、困難な状況でも冷静さを失わず、知恵と戦略を駆使して進んでいくエボシにリンクするんじゃないかなと、僭越ながら思います。
壱太郎僕らちょっと下の世代からすると、時蔵のお兄さんは何をしてもすばらしく、そこに行き着くには、團子くんが言う通り、自分を律してたくさんのことを勉強し、準備されているからだと思うんです。僕もちゃんと本公演で共演したのは一度だけで、戦っている場所がいつも違っていたんですけれど。サンとエボシではないですが、これからの女方というものを共に生きていきたいと思っていますし。今回、お互いに何を感じ、お互いにどんな芝居を見せていくかということが、今後につながっていく気がしています。
「とにかく歌舞伎を流行らせたい!」
──歌舞伎俳優の皆さんは子どもの頃から同じ世界にいらっしゃいますが、やはり、共演してみてわかるということも多いのでしょうね。その意味では、團子さんと壱太郎さんは、2023年から一気に共演回数を重ねていらっしゃいます。一緒にものづくりをしてみて、お互いにどんな刺激を受けていますか。
壱太郎その頃から共演が増えたのは、僕もそうでしたけれど、20歳前後くらいから舞台に出る機会が増えるからかなと思います。そうして一緒にいることが増えて團子くんから一番に感じるのは、お祖父さまへのリスペクトです。僕も祖父の坂田藤十郎に女方を習い、祖父を目指してやってきましたけれど、團子くんにもやっぱりお祖父さまを通して目指している世界があって、それがわかるからこそ、僕らも「じゃあこうやってみようか」と一緒に高みを目指せる。僕も祖父だったらどうするかなと考えて、正解はないけれど、想像しながら先人と共に創ろうとしています。僕らはこれからずっとそういうことを思いながらやっていくんだろうなと、團子くんと一緒にやっていると感じます。
團子僕は最近、壱太郎さんと自分は似ているなと思っているんです。
壱太郎えっ!?
團子僕と似ているの、嫌ですか(笑)。
壱太郎僕はそんなに脇目もふらずガーッという感じじゃないから(笑)。
團子もっと周りが見えてますよね。
壱太郎というわけでもないけれど(笑)。
團子いや、似ているなと思ったのは、作品や役の解釈みたいなことなんです。壱太郎さんは後輩の僕にも「もっとこうしたいんじゃない?」と、たくさん声をかけてくださって、稽古から千穐楽までたくさん気にかけてくださって助けてくださいます。僕も素直に思っていることを相談させていただいているんです。例えば台本の解釈などの疑問点を「これってこういうことだと思うんですけれどどうですか」と聞くと、「確かにそうだね」と答えてくださることが多くて。その時は同じ解釈ができたことがとても嬉しいんです。たくさんのことを教えていただいています。
壱太郎確かに、解釈って何通りも正解があって、だからこそ、同じ舞台に向かうときに同じ方向を見ていたり、同じ気持ちでいられるのは、すごく大事なことだなと僕も思います。仕事上のことに限らず、世の中の出来事について感じることとかも。團子くんとは13歳離れているけれど、同じような感覚が持てるのは嬉しいことですし、逆に20代前半の子たちが興味があることを教えてもらって学ばせてもらっているし、相互交流ができているふたりだなと思います。
──お互いのことがどんどんわかってきた今、『もののけ姫』ではどんな芝居のやりとりができそうでしょう。
團子壱太郎さんとは、私が幼い頃からたくさん関わらせていただいています。稽古して武装したものが全部剥ぎ取られる感じになる舞台上でも、約15年かけて構築された関係性が助けてくれて、今回の舞台であれば、サンとアシタカとして安心して芝居ができるんじゃないかなと思います。それはわかりやすいところで言えば、会話のテンポとかに出るのではないかなと。
壱太郎だから、團子くんが言った「芸は人なり」がまさに出てくると思いますし、そこに團子×壱太郎で演じる意味があるのでしょうし。そうやって普段から人と人として共に生きていられることに対する感謝の気持ちが、先ほどもお話した、人と人、人と動物、生き物と自然というこの作品が持つ壮大な世界につながって、その世界が当たり前に見えてくるような舞台になればいいなとも思います。そしてその壮大な感覚が、僕らのこれからの歌舞伎の壮大さにつながっていけばいいなと。僕はもう、このスーパー歌舞伎『もののけ姫』は、歌舞伎の新時代の幕開けのような舞台になるんじゃないかとすごく感じるんです。
──まさしく最後にお聞きしたいです。歌舞伎の未来をどうしたいですか。
團子僕はとにかく歌舞伎を更に更に、そしていつまでも流行らせたいです。それが夢です。そのためには、まずは目の前のことを頑張ることです。舞台の内容も大切ですが、それ以上に大切なのは姿勢だと思います。その公演に関わる人全ての姿勢が、舞台に1番大きな影響を及ぼします。舞台を観ていただいたすべてのお客様に「とにかく凄いものを観た」と言っていただけることを目指して、未来に突き進んでいきたいです。
壱太郎この1年は映画「国宝」のヒットもあって盛り上がりましたけれど、流行り続けるということが難しいんですよね。その意味では、このタイミングでスーパー歌舞伎『もののけ姫』ができるのはとてもいい巡り合わせだと思うので。今度は『もののけ姫』を観ていただくことで次につなげたいですし。その後も、歌舞伎を観ていただける杭を打ち続けてこの大きな山を登っていく。そうやって歌舞伎道を精進していきたいです。
取材・文:大内弓子撮影:杉映貴子
7月6日発売の『とぶぴあ』7月号にもインタビューを掲載!
歌舞伎と『もののけ姫』との親和性についてお話しいただいています。
ぜひチェックを!
https://lp.p.pia.jp/tobupia/
<公演情報>
スーパー歌舞伎『もののけ姫』
原作:宮﨑駿
オリジナル音楽:久石譲
脚本:丹羽圭子戸部和久
演出:横内謙介
協力:スタジオジブリ
製作:松竹
【キャスト】
アシタカ/シシ神:市川團子
サン:中村壱太郎
エボシ御前:中村時蔵
ジコ坊:市川猿弥
モロの君:市川笑三郎
甲六:市川青虎
猩々:市川寿猿
ヒイさま/トキ:市川笑也
ゴンザ:市川門之助
乙事主:市川中車
2026年7月3日(金)~8月23日(日)
会場:東京・新橋演舞場
関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/mononoke-kabuki/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2667477&afid=P66)
公式サイト:
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