【ライブレポート】“やりたいことやろうぜ”ツアー・ファイナルで山中さわお(the pillows)が35年間、走り続ける理由がわかった
Photo:岩佐篤樹
Text:浅野保志(ぴあ)Photo:岩佐篤樹
山中さわお(the pillows)が、2024年3月にリリースした9thソロ・アルバム『どうかなりそう/I’M GOING CRAZY』を携えて、全国15カ所を回った『IʼM GOING CRAZY TOUR』ファイナルが5月26日(日) 東京・渋谷CLUB QUATTROで開催された。
このツアーは、3月30日の荻窪TOP BEAT CLUBを皮切りに、ギター・木村祐介(ArtTheaterGuild)、ドラムス・楠部真也(Radio Caroline)のパーマネント・メンバーに、ベースは会場ごとに安西卓丸(元ふくろうず)、関根史織(Base Ball Bear)、宮川トモユキ(髭(HiGE))が交代で務めた。ファイナルは関根が登場した。
場内が暗転し4人が現れると、耳をつんざくほどの歓声が浴びせられた。オープニングは新作の1曲目に収録された「バモサ バイラール」。山中さわお、恒例の第一声「久しぶりじゃないか、みんな元気かい」に反応する大絶叫にびっくりした様子の山中は「いいねえ~。どうしたんだよ。もうどうかなってるじゃないか。
たまんない、興奮してきた。やりたいことやろうぜ」と煽って、6thアルバム『Nonocular violet』収録の「オルタナティブ・ロマンチスト」でボルテージを容赦なく一気に上げていく。
山中さわお(the pillows)
なりやまない、狂気にも似た歓声。山中は「俺たち、喜んでます(笑)。この1年間で、俺は『Booty call』(注:2023年4月リリースの8thアルバム)、“さわおとしおり”(注:2023年10月リリースの山中と関根による同名義のコラボ・アルバム『Private loophole』)、noodleのリミックス盤(2023年10月リリースのリミックス・アルバム『レモンソーダとタイムマシーン』)、そして『どうかなりそう』、さらに“さわおとケンジ”(注:2024年4月リリースの山中とThe Birthday フジイケンジによる同名義のコラボEP『再会モノローグ』)と、5枚のCDを作った」。割れんばかりの歓声が沸き起こる。
「わかってるよ、やり過ぎだって。今まで1日2食か3食でお腹いっぱいだよって言ってたのに、俺が台所に入ったら6食も出して、さらに“大福あるよ”“みかん食べる?”とか、いつの間にか君たちのおばあちゃん的存在になってる。
俺のこと、おばあちゃんと思っていいぞ。すでに“どうかしてる男”が作った新しい歌、『どうかなりそう』」と前置きして同曲へ。
ここ数年、the pillowsの活動と併行で、ソロ楽曲、複数名義のコラボ作品など矢継ぎ早に発信し続ける山中の楽曲を披露。コロナ禍で活動が思い通りにならない時期には突破力を湛えたロックンロール・ナンバーが多かったが、今回の新作『どうかなりそう』は、ややオルタナティブなアレンジの楽曲が増え、その影響かツアーも実に多彩な音の感触がぶつかり合う刺激的なセットリストだ。
関根史織(b/Base Ball Bear)
続くMCで山中は「俺は相変わらず音楽は大好きなんだけれども、新しい音楽を全然知らない。YouTubeを観る習慣もないし、サブスクも加入してない。昔はラジオ番組やってディレクターが持ってくる出合いもあったけど、最近はもう新しい音楽は知らない。でもね、別に困ってないんだよな。
自分が子供の頃、そして青春時代に聴いたロックンロールとか、俺は20代がそのまま90年代で、そこで出合った音楽が俺にはすごい重要で。ストーン・ローゼズとか、オアシス、レディオヘッド、ニルヴァーナとかピクシーズとか、その辺の音楽だけで多分ソングライター・山中さわおはもう仕上がっていて、何曲も何曲も作ってる、いまだに。飽きてないんだよね。その俺が作る音楽を聴きに、のこのこ君たちはやってくるわけだ(笑)。君たちも飽きてないんじゃないの!新しいも古いもない世界、それがロックンロールだ!」。
畳みかけるような言葉を繰り出して始めた曲は「アインザッツ」。このナンバーは世界情勢全体が閉鎖的でエンタテインメントが塞がれた2020年の夏にリリースされた5thアルバム『ロックンロールはいらない』に収録され、“独りになってどんなに苦しんでもオレは他の生き方は知らない”と宣言した重要曲。冒頭から笑顔があふれた山中だったが、この曲を演奏しながら、じっと客席を凝視してこの日を記憶に刻み付けているようにみえた。
「ヒルビリーはかく語りき」、「Mallory」などお馴染みの曲が連投され、山中の放つ、強く逞しいメッセージが客席一人ひとりの胸を締め付けていく。“もしも居場所がないならこのまま宇宙の果てまで付き合うぜ”。その優しさに救われた瞳と拳と叫びが場内に満ちていた。
木村祐介(g/ArtTheaterGuild)
「すげえ、なんかアメリカ・ツアーを思い出すよ」と口にした山中。続いてメンバー紹介へ。
関根は「去年はレコーディングに始まって、ツアーして、直後にすぐ“さわおとしおり”を作り始めたんですよ。夏の間レコーディングして終わったらまたすぐ曲作り始めて。今年に入ってからもMVをとったり、今もツアーして。
マジで飽き飽きするほどさわおさんのこと考えてた(笑)」と、山中と過ごした日々を振り返ると、山中は「そういうこと言うとね、もう祐介がメラメラと……」と、山中愛が止まらない木村の嫉妬心を笑いに転嫁。
木村も「負けないぞ!」と乗っかったが、そのあとに披露されたツアー中の大失敗エピソードは、木村の名誉のために敢えて生でライブ体感した人だけの記憶に留めます(笑)。楠部は10年以上ツアーに帯同している中で山中の酒飲みっぷりを語った。
楠部真也(ds/Radio Caroline)
山中が「悪魔のパブを知ってるか?」と挑発気味に振って「The Devil’s Pub」へ。新作から「アンディアモ」、「Hide and seek」など終盤でも熱く、激しくグルーヴを生み出して本編が終了した。
アンコールに促されて4人が再登場。演奏されたのは2013年に山中初のシングルとしてリリースされた「Answer」。10年以上前に生まれた曲ながら孤独と向き合う究極の歌詞が染みた。
最後のフレーズを絶唱で歌い上げた山中の想いが愛おしい。「終わりだ~!」と言い放ち前作に収録された「the end」。いつまでも治まらないあまりの熱狂っぷりに山中が語り出す。
「どうしたんだよ。どうにかなってるじゃないか(笑)。最高だよ、言うことなし。いやあ、楽しかった。俺は随分長いことやってるけど、結局ライブハウスが一番楽しいな。
いまだにね、登場する瞬間が好きで。暗転してみんなの歓声が聞こえて、照明が俺たち、そして君たちを照らして。わざわざ人間がこんなぎゅっと集まって、その目的はロックンロールだっていうのが最高じゃないか。俺たちは友達じゃないけど、いまさら無関係でもない。顔をたくさん覚えてるんだ。ステージから見て、みんなが元気に楽しそうだと、俺だって嬉しいんだよ」。さらにあふれ出す大拍手。「未だに音楽、ロックンロールは何をもたらすのか、存在意義を明確に宣言することは難しい。でもね、やり続ける。やりたいからね!やりたいことやろうぜ」と気持ちをひとつにしてくれた。
鳴り止まない拍手を受けて登場したメンバーたちに山中は「さっきの(木村)祐介ほどのハードな話じゃなくて、ちょっとした恥ずかしかった話を、一人ひとり、尋問したい」とお題を出して、自身が切り出したのは、よく受ける職務質問での出来事。続いて木村は本編で明らかになった“ハードな話”に負けないクオリティで、20歳の頃、同窓会で会った友人と行ったPerfumeのコンサートで起きた恥ずかしい話を披露し、山中に「いいの持ってるね~」と言わしめた。楠部も20歳の頃のちょっと下ネタめいたエピソードで笑いを誘った。関根も高校生のときに電車に乗っていて起きた災難を教えてくれた。「恥ずかしいこといっぱいあるけど、恥ずかしいことだらけの人生でも明るく元気に生きてます」と山中がトークを締めた。
「今日は本当に楽しかったわ。最後にロックンロール、よろしくお願いします」と「Absurd Song」でダブルアンコール。さらに山中が独りで登場し「I just like you」をアルペジオのギターで切々と弾き語った。言葉のひとつひとつが染み入るのがわかった。「サンキュ。今年はthe pillows 35周年だ。会いに来いよ」と言い置いてステージを去った。
35年という永きにわたって音楽を産みだし、それを必要とするファンに届け続ける山中さわお。でも長く続けることに理由などないのだろう。“やりたいから。やりたいことやろうぜ”。そんな彼の想いは、なによりも尊くて純粋で、だから僕たちの心にすっきりと入り込んで、なくてはならない存在になっていく。そんなことを確信したツアー・ファイナルだった。
<公演情報>
山中さわお『IʼM GOING CRAZY TOUR』
5月26日(日) 東京・渋谷CLUB QUATTRO